銀桜

□上つ弓張(沖→土)
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…今夜もアンタは帰ってこなかった。
今日で何日になる?
俺は、何してんだろう…。
俺はアンタの為に何ができるんだ?


アンタが、どっかの鍛冶屋で手に入れた刀が気になって調べさせた。
人の魂を食らう刀で、へたれたオタクになるってぇふざけた妖刀だと。
まさか、アンタがそんな眉唾もんにヤラレるたぁねーって思ってたら、なんんてこった。なっちまいやがった。
しかも、てめぇでつくりやがった局中法度まで犯してしまうなんざ…
妖刀を手に入れてから、俺の知ってるアンタじゃあねぇって事は確かだ。
認めたくはないが、あれから何日も経っていやがる。
アンタの魂は今頃…
…いや、アンタはそれで幸せなのか?
武州にいた頃から夢見て作り上げた、真撰組を棄てるほど、アンタはココが嫌になっちまったんですかィ?

………嫌だ。
そんなのは、ぜってぇ認めねぇ。
アンタの身体も、心も、…魂も全部俺のもんだ。
そして、俺の全部は…アンタのもんだ。
今までも、これからも。
アンタの作り上げた大事なもん、こんな事で潰しちゃいけねーんだよ。
マヨネーズ馬鹿がいなくなっちまったら、俺がつまんねーだろ。
「…あんた、俺の事、忘れちまったんですかぃ」
俺は、あの人の匂いが残る部屋で一人うずくまる。
不安で、
落ち着かなくて、
たいくつで、
寂しくて、
声が聞きたくて…。
子供の頃のように、
泣いて泣いてすがりたい。
もう、戻れないのか?
アンタの横に、俺はもういられないんですかぃ…。
アンタの横にいられないなら、いっそ、この手で……………………………
「!」
息を殺した人の気配がして、戸を背にして立つ。…山崎?
「…隊長」
その声は、少し怯えた様な山崎の声だった。
俺は静かに戸を開ける。
「…何かあったんですかぃ?あの、へたれ副長の情報でも手に入ったんすか?」
「…は、はぁ。隊長の耳に入れときたい事があったんですが、声かけにくくて…その、えと」
歯切れの悪い山崎の態度にイライラして、俺は刀を山崎の首横の壁に突き立てていた。
「あーメンドクサ。俺が、何だってぇ?」
「は、はいっ!あ、あのそ、その、殺気だってるというか、泣いてるっちゅうか。泣いてる時に声かけていいかわからなくて、その…普段の隊長と違ってて…」
しどろもどろに答える山崎。目が泳いでる。まるで俺と目を合わせちゃいけねーみたいな……え?…泣いてる?この俺が?あんたにまでわかっちまうくらい?何ヤッてんだ、俺。しっかりしろ俺。
山崎は潤む眼を真ん丸く見開いた。
「…で、泣いてるんだったら、あんたなぐさめてくれるんすかぃ?」
刀を突き立てられたままの山崎は、今度はぴくりとも動かず眼も反らさず答えた。
「いやっす。それは、俺の役目じゃないっす。隊長をなぐさめられるのは、ふ…」
俺に刀を顔の横で突き立てられ、襟首を捕まえられ、山崎は抗えないままだった。
しかし、しばらくして山崎は寂しそうな顔で
目線だけ反らしながら言うのを黙って聞いた。
何故この時山崎が寂しそうな顔をしたのかは、今の俺には推し量る事は出来なかった。それは後で知る事になるのだが。
「…俺を、なぐさめられるっちゅうのは?そいつは、誰なんでぃ」
「副…」
山崎がその人の名を、言おうとした瞬間、心の奥で何かがはじけた。
静かに刀を壁から抜いた。
山崎は、ほっとしたような顔をした。
そして、俺からの命令を待つかのように俺を見た。
そして、俺は決心した。
「山崎、伊東をマークしろ」





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