銀桜

□曼珠沙華
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「もう〜いいかい!」
「まぁーだだよ」
「もう、いいかーい」
「もう、いいよぉ」

晋助はあたりを見回した。塾の裏の広い、広い野原を。 鳥が放物線を描いて飛んでいく空を、見上げた。
「なんで、じゃんけんに勝てないんだ…」
ぽつりつぶやく。かくれんぼしようと言ったのは、こたろう。晋助と銀時が大喧嘩をしていたから。
「ジャーンケンポーン」「…」
「晋助の、鬼ぃ!じゃんけん弱ぇなぁおい」
「うるせー。負けてやったんだ。おめーは、まだ来たばっかだから、この辺わかんねーだろ?迷子になったらどーすんだって思ったんだよ!」
「負け惜しみだっちゅうーの!潔く負けたって認めろ」
「たまたま負けただけだろっ!」
「…はいはいはい。ケンカはそれまで。教室でケンカしないように外に来たのに…もう。じゃ、範囲はあの丘よりこっちで、塾の庭までだからね、…って、聞いてる?晋助、銀時」
「わーってら。ほら、晋助はやく数えろ」



この広い野原に、ただ一人ぽつんと置き去りにされたような感覚に陥る。ひろがる野原には、ただ生い茂る草が風にそよいでる。 そして、丘の上に向かって歩く。
「うわ…」
そこには、辺り一面真っ赤に花が咲いていた。葉っぱはなく、空に向かってすっくと立っている。紅い、紅い花。
「あ…」
晋助は、はじめ足がすくむ。そして、震えている自分に気がついた。
「ぎ、ぎ、…」
声が、かすむ。のどが、からからに乾くのを感じた。
「ぎんとき…」
そういうと、晋助は走っていた。真っ赤に燃えるような花を、なぎ倒しながら踏みつけて。折れた花のつんとくる匂いが鼻についた。
「銀時?銀時!」
晋助は、うつ伏せに横たわっていた銀時を抱き起こす。
「ぎ、ぎんとき?銀時!目を、目を開けてっ!?なぁ、ぎんときー」
晋助が、大声で泣いた。「どうしたの?」
こたろうが、木から飛び降りてきた。
「銀時が、銀時が…死んでる」
晋助がそう言ったあと、呑気な声。
「…アレ?みつかっちまった?ぁあ、今度俺が、鬼?」
こたろうは、小首を傾げてくすっと笑う。晋助は、胸に抱いた銀時を見下ろす。
「あ、いい天気だし、気持ちいいから寝ちまった…テヘ」
銀時は、眠そうに欠伸をする。
「…で、なんで晋助泣いてんの?」
晋助は、ぱっと顔を赤らめた。そして、銀時の身体をはなした。ごちっ
「ばっ、て、てんめー何すんだよっ!」
「この、ばか銀時!おまえなんか、おまえなんか、甘いもん食って腹壊して、んこ垂れて、先生にしかられろっ!もう。俺、一抜けたっ!もう、かくれんぼなんかしないっ!」
「あ、晋助…待て」



「…何が、おかしいでござるか?晋助」
「あ、…いや。昔を、少し思い出してた」
「…昔?」
「あぁ。昔、昔のお話さ」
「…妬けるでござるな。晋助にそんな柔らかな笑顔をさせる昔話とやらに」
「…ふん」
誰にも知られてはならない
誰にも悟られてはいけない

…あの日、真っ赤に燃えるような花の中で、横たわっている銀時を見て銀時の心臓を貫いて生えていたかのような花。まるで、本当に血が出ているのではないかと錯覚した紅い、紅い花。
銀時が紅桜の刃を受けて、傷を負った時、一瞬その身体中に真っ赤な花が咲いたように見えた…。晋助は小さな声で言う。
「…もう、いいかい?」 

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