銀桜

□宵待草
1ページ/1ページ

「…?なんだコレ」
「さ、捜すの大変だったんだぞ」
「こんな葉っぱがか?」
「…西洋では幸運のお守りだそうだ」
「幸運の?………お守り?」
「そうだ。だから、コレ持って出陣しろ」
「…四つ」
「は?」
「四という数字は死に繋がるからダメなんじゃね?」
「あ………」
そう言ってしゅんとする桂がかわいく思えて、高杉はくすっと笑う。
「ありがとヅラ」
「ヅラじゃない桂だ」
「はいはい」
「高杉、緊張感のない返事はするな。はい、は一回と先生もおっしゃってただろうが」
「…」
ムッとして拗ねる高杉に、桂は目を細める。そして、頭をぽんぽんと叩く。
「こんな戦で無駄死にするな。きっと違う形で先生が理想とする世の中があるはずだ。きっと、先生もそう言うはずだ」
「…ヅラ」
「だからヅラじゃない。桂だ」
先の戦で、隊士が半壊滅状態で帰陣した。その痛手からようやく身体や心の傷が癒えた高杉の始めての戦だった。桂は、高杉が床にふせっている時坂本から聞いた西洋の中の話をしてくれた。
「じゃ。いってくる」
「…あぁ。必ず、必ず帰って来るんだぞ。…死に急ぐ事は、ないのだぞ」
「…」
高杉はふんわりとやさしく微笑んだ。桂はその笑みが、死を覚悟してそうな笑みに思えて、高杉の頬を挟んだ。
「…必ず、必ず生きて帰ってこい。…待ってるから。あれはお守りだ。ちゃんと身につけていろ。わかったな?高杉」
「…お母さん…」
「お母さんじゃない。ヅラだ…あ、間違えた。桂だっっっ!」
高杉は優しくさっきとは違う笑みをもらした。桂は無くしたくないと思う。こんな事ならば共に戦いたいのに。そばにいれば護れるかもしれないのに。桂は先の戦で重傷を負い、みなにしばらく無茶をしないよう軍師的ボジションで陣頭指揮をとっていた。桂は、高杉をふわりと抱きしめた。高杉は桂の肩に顔を埋める。そして、桂の髪がさらりと鳴ったように聞こえた高杉は、その昔わがままを言ってオンブしてもらったかの人を思い出した。
「…じゃ行ってくる」
桂からのお守りを胸ポケットにしまいぽんぽんと叩き、ひらひらと手を上げて、振り向かず歩いて行く。その後ろ姿を見ながら桂は抑え切れなくなり、部屋へ行こうとくるりとUターンした。
「おっと。ヅラぁ、てめ何考えてる」
「…銀時」
「坂本が向こうで待ってるぞ」
「配置や攻撃は昨夜、了解済みだ。心配には及ばぬ」
なおも腕をつかまえる銀時を振りほどこうとする桂。
「てめーはおとなしくここで待ってろ」
「…イヤだと言ったら?」
「力付くでも、ここに縛り付ける」
「離してくれ銀時。高杉が」
必死の瞳が銀時の覚悟をひるませた。だが行かせるわけにはいかない。
この国を護ろうとする者を。志士達が誇れる者の象徴を。
「…ヅラ、聞いてくれ。あいつは、高杉は必ず帰ってくる。そしたら、おかえりって言ってやってくれ。頼む」
銀時から掴まれた腕が熱い。わがままなのか?共に戦い、ともに朽ち果てる事は俺のわがままなのか?と、桂は言いたいことを飲み込んだ。桂はそれが叶わないのならと思った。そして婉然と微笑む。
「…長い、夜だな」

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ