銀桜

□香る落葉
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落ち葉の舞う道を歩いていた。足元の丸い黄色の落ち葉を踏みしめていた。
「…あ」
確か、この葉っぱは見覚えがあると銀時は思った。
以前、坂本が商いで来た時この木を見上げて話していた。
『のー金時、おんし知っているがかー?』
と言い、気の幹をぽんぽん叩いた。
『…知らね』
『桂ちゅうんじゃ。この木の名前。ヅラと同じやのう。久しく会うておらんが、元気にしちゅうかなぁ』
……………………………
そう話したのは、まだ夏の陽射しが照り付ける日の事だった。銀時は、幹に手を当て、木を見上げる。



銀時はかっての師が話してくれた事を思い出す。



それは、遠い幼い頃。
師と夕焼け空の下を歩いていた。師は、落ち葉を拾いあげた。
『銀時、この落ち葉の匂いを嗅いでごらん』
優しく微笑む師の言うとおり、まんまるの黄色い落ち葉をひとつとり、銀時はくんくんと匂いを嗅いだ。
『あっ、甘ぇ!』
ふふふと師は笑う。
『先生、これ、何?甘い匂いだよ?これ、食えんの?』
『銀時は甘いもの好きだからね。でもね、これは食べられないんだよ。残念だね』
『ちぇ…甘いのは匂いだけか。食えねーならつまんね』
銀時はそれでも甘い匂いにつられて、ペロと舐めた。………枯れた葉っぱの土臭い味で、ぺっぺっとして袖で舌を拭いた。
師は穏やかな笑みを浮かべながら、
『銀時、この葉っぱの名前はカツラと言うんだよ』
『ヅラ?』
『ヅラではない!桂だっ!』
どこからともなく、桂が怒鳴る。
『銀時、貴様、ヅラヅラとうるさいぞ。それに僕は食えないに決まっているではないか』
桂が一気に話しまくる。
銀時と師は顔を見合わせて笑った。
『小太郎、違うよ。ほら、この葉っぱの匂いを嗅いでごらん』
師は、まんまるの黄色い落ち葉を、桂の顔の前にかざす。桂は、その匂いを嗅いだ途端、破顔した。
『先生!甘い匂い!飴みたいな匂いです!』
師はにっこり笑い頷く。
『この落ち葉の名前はカツラと言ってね、小太郎の苗字と同じだね。昔はね、粉にしてお香に使われていたんだよ』
『だからヅラって言ったんだよ』
『だから、ヅラじゃない、桂だと何回言えば貴様のその甘くただれた脳みそに入るんだっ』
銀時のたもとを握り揺らす。銀時は、そらっとぼけて鼻をほじりながら知らんぷりを決め込む。
『銀時!言い直せ!ヅラじゃない、桂だっ!』
銀時と桂が二人で騒いでいるのを、穏やかにみつめる師だった。そこに、
『痛っ!』
銀時、桂が同時に声を合わせる。
『くっせー!あ、あ、なんだこれ!銀杏!髪の毛に匂いがぁぁぁ』
桂はポニーテールをほどいた。そして銀杏をとる。師も桂の髪の毛についた銀杏を、苦笑いしながらとってくれていた。
『…くっせぇ』
銀時は、銀杏が飛んできた方向を見る。
『晋助、銀杏は投げるものじゃないよ。これは食べられるからね、後でたくさん拾っといで。炒ってあげようね』
師が優しく話すと、晋助はぷいっと走って行った。その姿が夕焼けに染まる姿をぼんやり見ていたのを思い出した。


銀時はふっと笑い、匂いを嗅ぎながら目を閉じた。幼い日の穏やかな日の思い出だった。

「銀さぁーん」
「銀ちゃあーん」
新八と神楽が駆けてきた。

「銀さん、銀杏の実があっちにたくさんありましたよ」
「銀ちゃん、たくさん拾ってたくさん食べるアル!銀ちゃんの、つまみにもなるネ!気合い入れて拾うアルよ!ヅラも誘うアル、さっき散歩してたネ」
桂………?銀時は、タイムリーなヅラに笑ってしまう。
「あぁ」
新八と神楽に両腕をとられ歩いていく。
神楽は、その場所につくと一人土手の方に走っていった。しばらくすると、桂も同じように連れてきた。…………と、いうべきか、引きずってきて桂は、ぼろぼろだった。
「リ、リーダー、一体どこへ………あ、銀時」
「ヅラ」
「ヅラではない、桂だ」
いつものように言い、いつものように答える、いつも交わされる言葉のやりとり。今までも、これからも。
ふっとお互いを見て笑い、しばらくぶりの再会に離れたあの日を思い出す。
「元気そうだな」
「…あぁ」
銀時は、神楽に引きずられて座り込んだ桂に、手を差し出す。
桂は、小首を傾げて笑い銀時の手を断り、すっと立った。
神楽や新八が賑やかに銀杏の実を拾う姿を見て、お互い顔を見合わせて笑った。
穏やかな秋の夕暮れに染まる、少し前の時間の話。

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