銀桜

□蘂桜(高杉→先生)
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ザリッザリッ
夜のしじまに低く静かに、
絶え間無く続き、不気味に響く音
ザリッザリッ………

そして、しのぶような息遣い
その影は、長くのび
深い哀しみの
色を紡ぎだし揺れる




掘り続けた。
ただひたすらに
ただひたすらに

爪が剥がれる痛み
剥がれた皮膚から入り込む泥
滲む血

血だらけになりながら。
かの人が、静かに、とこしえに眠るついのすみかとなる場所を

誰にも邪魔される事なく
誰にも汚される事のないように祈り続けながら

もう、誰の目にも触れる事のないように


もう、二度とこの世にその身を、ただ悪戯に晒されないように


指の神経はもはや痛覚すら残っていないのに気付く時。

ようやく、かの人をとこしえに葬る揺り篭が姿を表す



好奇な目に晒され、
時の謀反者と烙印を押され、志し半ばのまま、役目を終えたぼろ雑巾のように捨てられた。

道端に転がる髑髏が、やがて朽ち果てるのを待つかのように、
その人の身は打ち捨てられた。

梟首

梟木に斬首された師の頭部


その姿を見た時の慟哭

自分の中にのたうちまわる黒い獣が覚醒する



何日もその梟首を眺めた
そして、いつのまにか
処分されていた


狂ったようにそれを捜す
彷徨し
彷徨し
そしてそれを見つけだした時。
思いがけない行動をとっていた。

かつての、師の顔を思い出すにも思い出す事さえも拒否するかのごとく。
それは師の面影を残してはいなかった。
かつてのこれにいろどられていた
皮膚も
髪の毛も
所々その残骸を遺すのみ
柔らかい皮膚も溶け
優しい瞳も
持ち上げた時、
どろりと落ちた

頭部のない遺体を掘り起こす。
頭についた泥を払い、冷たくなった師を抱きしめる。
夜に紛れて遺体を運び出す。



師の安らかな眠りを祈って土地を探し、さ迷った日々。


そして、辿り着いた


土を掘り起こす作業
道具は何もない
ただ
自分の手、のみ。
手にあたる土や泥の感触を感じながら。
それはこの世で
1番の人を葬る為の儀式
1番の人が眠る揺り篭


子供の頃に、かの人から享受した言葉を思い出していた


「先生、死んだら魂はどこにいくの?」
「この世を去った魂は蓮の花に包まれて極楽浄土へいくんだよ」




先生、貴方のその高尚で清らかな魂は今、安らかですか?





朝陽がしらじらしく、やまのはを照らし出す頃

小高く盛られた土を見下ろす
その横顔には、先程前まで、その痩せた頬を濡らしていた涙はもはや見られず。
薄ら笑いさえ浮かんでいた。




長い長い
彷徨と
悪夢が
始まった



足元には蕊桜がたわわに落ちていた




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