銀桜

□弧月(高杉)
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たくさんの星が夜空に瞬いている。
まるで雪のように星が降る夜を、じりじりとどす黒い雲が急速に覆いはじめ、月を隠し始めていた。

…ベン……………………

屋形船に三味線の音が寂しげに静かに響く。
先刻の喧騒が嘘みたいだった。
「白夜叉が、俺の護るものは今も昔も何一つ変わらんと言うておった。晋介、おぬしはそれがなんだか存じておるのか?」「…」
「最後まで聞きたくなってしまったでござるよ。やつらの歌に聞きほれた拙者の負けでござる」
「…ふん」
すぐに解答しなかった俺を残して万斎は部屋を出ていった。
三味線の音色が今日は物悲しく泣いているように聞こえる。
船の窓から見上げる月までも、物悲しくさみしげに見える。
…逢いたい…。
銀時、今お前もこの雲に覆われそうな孤独な月を見ているだろうか?
…月なんか見ちゃいねぇか………
なぁ銀時、お前の護るものは、なんだ?
俺も知ってるものか?
…その中に俺は存在しているのか?
…そんなわけねーよな。俺は、あの日以来徹底的にお前と違ってしまったものな。
俺は、この先このまま突っ走る。
俺の中には黒くどろどろしたものが、うごめいている。
消そうとも消えない黒い獣が、血を吐きながらのたうちまわる。
その血を洗っても
洗っても、
清浄になる事ぁねぇ。
…銀時、あの日から止まったままなんだよ…
あの日、…先生の髑髏を抱きしめた日から………
しかしよぉ、銀時、
今回の件で俺が関わっていると知った時、おめぇはなんと言う?
罵倒するか?
軽蔑するか?
…考えても詮無き事か。

ヅラ、お前はなんだかんだ言っても銀時と同じ場所にいて、同じ時間を刻めるんだな。
…しかし、俺は…。

ならば、恨まれようが憎まれようが、一時でもおめぇが俺の事を考えてくれるなら、とことん嫌われ者でいくしかあるめー。
それが、俺が銀時との羈絆。
今はこれが俺の生きる意味。
修羅という名の道を彷徨う、俺の道。
あの日から、俺の道は決まっていた。
何もかも壊すだけだ。
こんな世界はいらねぇ。
…だって仕方ないではないか。
俺はもう後戻りはできない。
こんなにも離れてしまった。
こんなにも、違えてしまった。
なぁ、銀時、ヅラ。
天人によって腐らされたこの国の行く末なんかにゃ俺は興味ない。
だが、その天人と手を結びこの腐れた世界をぶっ潰そうとしている俺を笑うがいいさ。
俺は天人の襲来によって失われたものの大きさよりも、お前との絆を失う事の方を恐れている。
その比重に押し潰されそうだ。
お前は護る。
俺は潰す。
そうして俺は同じ時を紡ぐ。
厭悪も怨恨も甘んじてうけよう。
そうする事でおまえを繋ぎとめられるなら。
俺の心の修羅ってやつを見せるしかあるまいよ。先刻まで降るような星空があった空は今は雲に覆われて、いつしか闇夜になっていた。     完

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