アフタースクール

□桜場と梶原。
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初めて出会ったのは中学校の入学式。

1番前の列で、彼の新入生代表の言葉をきいた。

『―僕達はこの学校で学べることを大変嬉しく思い―…』

やけに学ランが似合う黒髪の少年。まだ声変わりの終わらない声で、すらすらと機械のように読んでいく。

(うっわ…仲良くできなさそー。)

何百人の視線を一身に浴びているのにも関わらず顔色ひとつ変えない。

(緊張とかしないのかねぇ優等生くんは。)

『―…4月9日、新入生代表桜場光一。』

彼は無駄としか思えないほど長かった代表の言葉をそう締めくくり、軽く頭を下げ、回れ右をしてステージを下りていった。

(やっと終わったよ…)

俺があくびを噛み殺していると、光一は俺をキッとにらんだ。

(うわ。うぜーっ)

光一と俺は同じクラス。あっちが『桜場』で俺が『梶原』だから光一は俺の前を通らなければならない。近づいてくる光一。

(あー気にいらねえ。)

前を通るアイツから俺は目を離さなかった。

(さぞ気持ちいいんでしょうなぁ。あんなにあっさりできて…)
『…っ』
『!』

俺は目を見開いた。眼鏡をあげる光一の指先が…震えていた。
そのせいでうまく眼鏡があがらない。

『っ…ふーっ…』

光一はあっさり通り過ぎ自分の席の前へついた。

『着席』

教頭の合図。腰を下ろす。

(うわ…やっべー…)

カタブツで真面目で完璧な優等生のはずなのに大きすぎるプレッシャーに堪え、緊張を隠して。


安心して気が抜けたんだろう。きっとあんなにもスラスラと読むために何度も何度も練習を繰り返したんだろう。

あまりにも簡単に想像できてしまう必死になったあいつの姿。

気に入らないと思っていたことなどすぐに忘れ、俺は笑いをこらえるだけでせいいっぱいになってしまった。横の席のやつが冷たい視線を送ってきても気にならない。

『…ッ、ぶくくっ…』

右手で口を押さえる。

(…めちゃくちゃおもしれえなあの優等生ぇ…っ)

中学校生活が楽しみでしかたなくなった瞬間だった。




 
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