過去拍手

□年下の男の子
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<梵天丸>



「どうされたのですか?」



見れば左目をゴシゴシとこすっている梵天丸様がいた。
瞬きを繰り返し、また目をこする。
その仕草は可愛らしいが、放っておくことは出来ない。



「チクチクする」



手をそっと避けて覗いてみると、そこには一本のまつ毛があって、瞬きをする度に瞳に突き刺さっていた。
白目は赤くなり、涙がポロポロと零れている。



「左目も見えなくなるのか?」



ただでさえ右目を失ってから、それほど時間が経っていないのだ。
目が開けられない、痛い……それは小さな梵天丸様にとっては恐怖だろう。



「大丈夫ですよ、梵天丸様」
「だが痛い」
「まつ毛が入ってしまっただけです」
「まつげ?」
「ええ、私が取って差し上げますのでご安心下さい」



見上げて来る片方の瞳。
何色にも染まって欲しくはない。
幼いながら汚いものをたくさん見て来た瞳だ。
これ以上の苦痛など、これ以上の悲しみなど、背負って欲しくはない。



「むぅ…、まだか」
「もう少しの我慢でございます」



瞳に近付く指が怖いのか、すぐにでも瞼を閉じてしまいそうな梵天丸様。
あの、病の際の痛みや恐怖が蘇って来るのだろうか、私の着物を掴んで離さない。
それでも必死に耐えている姿には、未来の一国の主の姿が――…



「梵天丸様、取れましたよ」
「……ほんとうか?」
「ほら、もう痛くはございませんでしょう?」



問えばパチパチと瞬きを繰り返す小さな瞳。
袖で涙を拭ってから、梵天丸様は改めて私の着物をぎゅっと握りしめた。



「お前はすごいな。もう痛くはない」
「梵天丸様が我慢されたからですよ」



失礼だとは思いつつも、キラキラとした眼差しを贈る瞳に負け、そっと頭を撫でてみる。
それに応えるようにヘラっと笑う表情はどこにでもいる男の子。
これから先、どんな汚いことが起こったとしても私が守るのはこの瞳が宿る未来の光。
梵天丸様という存在そのものだ。



「梵天丸様、辛いことがあった時はいつでも私をお呼び下さいませ」
「つらいこと?」
「泣きたい時や寂しい時、痛い時。あなた様が私を呼んで下さるならば、どこへでも参りましょう」



あなたの傍に駆けつけ、そしてあなたをお守りしましょう。
だから、あなたはいつも前だけを見て進んで下されば良いのです。
後ろには小十郎様が、影には私がおります。



「ならば、お前がつらいときは梵をよべばいい」



ああ、なんて優しい人。
こんな私を気遣って下さるなど。
その言葉だけで私は、どんな辛い仕事でもやってのけられます。
あなたが、あなたのままでいて下されば、私には泣く場所など必要ないのです。



「梵天丸様が笑っていて下されば、それだけで私は嬉しいのですよ」
「ならば笑う。お前が笑えるように笑う」



あなたに降りかかるものは私が払ってみせます。
流す涙も、口に出る不安も、受け止めて差し上げます。
ですから、いつでも眼下を照らす"梵天"であって欲しいと、私は願うのです。





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"梵天"とはいわゆる"世界の創造主"。
つまり神と同じことになりますね。
梵天丸の両親はなんてすごい名前を付けたのだろうと、意味を知った時は驚きましたが……

梵天丸は弱虫・泣き虫・引きこもり。
なのに強がりばっかりで、甘え方を知らない不器用な少年……であって欲しいw



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