過去拍手

□彼と彼女の御話
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<斉藤一と彼女の御話>





雨宿りしていたら新入りが来た。

どこかで見た事があるような茶色い毛と翡翠色の瞳。
二人分くらい空けて、そいつはそこにチョンと座り込み、寒いのか時折小さく震えていた。





「…っくしゅ!」





くしゃみが出た。
もちろん、俺ではない。

チラリとそいつに視線を向けると、気付いたのかそいつもこっちを見た。
その翡翠色の目がじっとりと見て来て、時折ニィっと笑ったようにも見えるから、思わず言葉が口を突いて出て来た。





「総司みたいな奴だな」





するとそいつはフイっと顔を逸らして今度はヘタリ込んだ。
ますます総司に似ていると思う。

随分濡れているのだろう。
さっきから、濡れた体から水分を一生懸命飛ばそうとしているのが見て取れる。
そして、再度聞こえた小さなくしゃみ。





「風邪でも引いたか?」





そいつを見ないまま声を掛けた。

今日は朝からこんな天気だった。
突如降っては止み、降っては止み……おかげで遣いに出ていた俺は足止めを食らうばかり。
何故、そういう天気だと分かっていながら傘を持たなかったのか。

持ってはいたのだが、先程困っているであろう母子に手渡してしまったのだ。
晴れ間も見え始めていたし、大丈夫であろうと帰路に着いた矢先のこの雨だった。





「あんたはどうしてこんな日に出歩いている?」





聞けば、不思議なものでも見るかのような視線を向けられた。
それでは聞いた俺の方が恥ずかしくなって来るではないか。





「気にするな。聞いてみただけだ」





掴みどころのない同僚と同じ色の瞳が少しだけ笑った気がした。
こんなところを当事者である総司にでも見られたら、明日からしばらくは屯所内での俺の噂が絶えないだろう。
それを引っ張り出しては良からぬ事にも使われそうだし、欲を言えば平助や新八にも見られたくないものだ。

空はまだ黒く、しばらくは止みそうにない。
もし止んだとしても、すぐにまた雨に見舞われるのであろう。





「秋の空は気難しいと言うからな」





女心と秋の空……とかなんとか左之が言っていたような気がする。
その二つは非常に変わりやすいものなのだと言うが、俺にはよく分からない。
だが、秋は好きだ。
旨いものもたくさんあるし、紅葉や月も綺麗で酒など飲むにはもってこいの季節だろう。





「気難しいのも時には風情があっていいのかもしれん」





ふっと立ち上がったそいつは、軒下から空を見上げている。
出ようかどうしようかと迷っている様子だ。
このまま雨宿りも悪くはないが、早く戻らなければ副長の予定も崩れてしまう。

隣のそいつをフワっと抱き上げて雨空の下へと飛び出した。
ジタバタと暴れるそいつを半無理矢理に胸元へと押し込むと、僅かに抗議の声が上がる。





「心配はいらん。雨が止むまでの仮宿にすればいい」





そんな言葉が通じたのか、小さなそいつは礼を言うかの如く「みゃぁ」と鳴き、俺の手を舐めた。
ザラっとした舌触りが妙に不思議で、雨だというのに少しばかり得をした気分になった。





−−−−−−−−





再び登場、一くんです!
一くんに対する熱はなかなか消えません(*´∀`*)
消えなくていいけど♪

彼女=猫、になっております。
一くんは猫に対しても真剣そのもの。
淡々と説得したりするけど、結局冷たく出来ないという可愛さにきゅん☆
そんな姿を見た総司に「一くんってほんと真面目だよね」とか言われちゃうんだ!!





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