小咄

□ツナガルツナガル
1ページ/2ページ

慎ちゃんが風邪をひいた。
季節の変わりめは気をつけてねって、あれほど口をすっぱくして言ってたのに……。

「すみませ、姉さん……」
「私は大丈夫だから、慎ちゃんは寝てて。じゃないとこじらせちゃうよ?」
「そうっスね……」

昨日、雨の中以蔵の相手をしていたのが原因のようだ。
朝餉の時から、何かぼーっとしてるなと思って……。
試しに額に手をやると、体温は温かい感じを通り越していた。

「熱、計ってみよっか?」
「……何スか、その棒は?」

鞄から取り出した体温計を、慎ちゃんは不思議そうに眺めていた。

「これは体温を測る道具なの」
「そ、そんな細い棒で体温が分かるんスか!?いやー、人間も凄いこと考えるっスね……」

季節の変わりめには必ずと言っていいほど体調を崩す私は、母に言われて、普段から体温計を持ち歩いていた。
まさかこの時代に来て使うとは思わなかったけど、母の忠告を聞いて良かったって思う。

「ごめん、ちょっと起こすね」
「あ、はい」

慎ちゃんの背中を支えて起こすと、少し汗ばんでる気がした。
やっぱり苦しいのだろう、息遣いもちょっと荒く感じる。

「これを脇に挟んで、音が鳴るまでじっとしててね」
「……それだけっスか?」
「うん、それだけ」
「意外と、簡単っスね」
「でしょ。じゃあやってみてね」

スイッチを入れて体温計をその手に渡すも、慎ちゃんは一向にそれを使おうとはしない。

「慎ちゃん?」
「姉さん……計って、くれませんか?」
「へっ!?」

その一言に、私の体温が急上昇するのを感じた。
慎ちゃんの顔が、見れない……。

「そ、そうだよね!初めてだし、使い方聞いてもよく分からなかったりするしね!」
「……お願い、します」

多分、風邪をひいてる所為で、誰かに甘えたくなってるんだ……きっとそうだよね。

「じゃあ、失礼しまーす……」

覚悟を決めて襟を解放させると、初めて見る男の子のカラダがそこにはあった。
程よく筋肉がついたそこを直視できなくて、目を反らしながら腕を持ち、脇に体温計を挟める。
それを反対の手で支えようと手を伸ばすと、その手を引っ張られ、慎ちゃんの腕の中にいた。

「し、慎ちゃん!?」
「姉さん……俺、もう我慢できないみたいっス」
「そんなに、苦しいの?」
「はい、とても……」

片腕だけだというのに、抱きしめる力はどんどん強くなる。
耳元で感じる吐息が、どんどん私のカラダの自由を奪う。

「姉さん、すき……」

そして重ねた唇が、私の頭の中を真っ白に染めた。

「し、んちゃ……」

どれくらいそうしていたかは分からないけど、体温計が鳴っても、私を解放してはくれなかった。
漸く解放されて、38度の熱を確かめた頃には、慎ちゃんは既に眠りの世界に旅立っていた。
残されたのは表示が消えない体温計と、熱が引かない私。


ツナガルツナガル


(あの時、抱きしめられた感触が忘れられない)
(あの時、唇が触れた感触が忘れられない……)
(もしかしたら、最初から熱があったのは私の方かもしれない)
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ