小咄

□今日から始まる軌跡
1ページ/4ページ

「わああ、懐かしい!」

今日はお登勢さんのお使いのついでに、慎ちゃんに北野天満宮に連れてきて貰った。
この時代で、今も変わらずにある歴史に触れることができるのは、奇跡だっていつも思う。
それは建物であったり、人であったり自然であったり様々だけど。

「姉さん、お腹空きませんか?」
「確かに……言われてみると、結構歩いてきたもんね」

現代で言うと、伏見区から北区へ大移動したことになる。
いくら剣道で鍛えていたとはいっても、慣れない着物や草履での移動は、想像以上に体に負担をかけていたようだ。

「この先の今宮神社の傍に、あぶり餅が美味しいって評判の店があるっス。そこで休みませんか?」
「じゃあ、そうしよっか」

京に住んでいながら、今宮神社には一度も行ったことがなかった。
まさかこの時代に、慎ちゃんと一緒に行くことになるなんて、夢にも思わなかったな……。

「使いを頼まれたとはいえ、ここまで連れてきて申し訳ないっス」
「そんなことないよ。こんなに美味しいものが食べられたんだもん、来て良かった」
「姉さんにそう言って貰えると、嬉しいっス!」

いつも思うけど、慎ちゃんは美味しいお店をたくさん知っている。
多分、慎ちゃん自身が甘いものを好きだからだと思うけど、女の子には凄く喜ばれるんだろうな。

「あぶり餅は、病や厄除けの御利益があるって有名っス!」
「そうなんだ!じゃあ皆にもお土産で買っていこうか?」
「それはいいっスね。皆追われる身だから、喜ぶと思うっス!」

お茶とあぶり餅を頂きながら眺める京の風景は、格別なもので。
今も昔も長閑な気持ちにさせてくれるものが、ここにはある。

「慎ちゃん、もう食べたの?」
「んぐ……美味しくて、つい」

隣に慎ちゃんがいてくれたから、こんなに素敵な気持ちになれる。
慎ちゃんには感謝しなくちゃね。

「一本あげるよ」
「い、いいっスよ!姉さんのだから、姉さんが食べて下さい」
「私もいっぱい食べたから。素敵な場所を教えてくれた慎ちゃんにおまけで、ね?」
「いや、でも」
「はい、あーんして?」
「あ、あーん……」

口元にお餅を運ぶと、慎ちゃんは顔を真っ赤に染めながらも、それを口に含む。

「お、美味しかったね!」
「そうっスね……」

自分のしたことにやっと気付き、体温が上昇するのを感じた。
食後の運動に席を立った慎ちゃんを見送り、頬に手をやると、そこは確かに温かかった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ