小咄

□君ガ生キル未来ノ為ニ
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「いい天気だね」
「そうっスね……」

龍馬さんと武市さんと以蔵は長州藩邸に呼ばれていて、今日は慎ちゃんと縁側でひなたぼっこ。
昼前にも関わらず長閑な空気が流れる寺田屋は、ちょっと珍しい。

「……姉さんは、未来から来たんですよね?」
「うん、多分」
「姉さんのいた未来の日本は、どうなってるんスか?」
「そ、それは……」

何とも答えづらい質問だった。
仮に私がここで未来の話をしたら、慎ちゃんの未来を捩曲げてしまうんじゃないかって。
それがきっと、慎ちゃんだけでなくこれから来たるべき未来をも変えてしまうんじゃないかって。

「俺は多分、話を聞いて未来を変えようとは思わないっス」
「慎ちゃん……!」
「ただ、確かめてみたいだけなんです。姉さんの生きる日本が、どんな姿なのか」

真剣な表情で見つめてくる慎ちゃんからは、迷いや不安というものは一切伝わってこなかった。
私が決心したのを感じてか、慎ちゃんは体半分こちらに近づいた。

「まず、今の日本人に刀をぶら下げている人はいない。戦争だって、時々いざこざがあるけど、日本は戦争をしないって決めてるの」
「じゃあ侍がうろちょろしてるわけじゃないんスね!?」
「そうだね。皆毎日を平和に生きてるって感じかな」

刀や侍のいない社会が実現されたことに、慎ちゃんはとても感慨深そうにしていた。
その礎になったのが、日本を動かしたのがここにいる人達で、私はその人達と同じ時間を共有しているなんて……不思議。

「建物はどんなんスか?」
「家は今でも木造が多いけど、ビルっていう高い建物もいっぱい建ってるよ。道だって、コンクリートっていうので舗装されてるし」
「寺子屋はどうっスか?」
「寺子屋は、今学校って呼ばれてる。性別や身分に関係なく、皆学ぶことができるんだ」
「それは凄いっス!」

そんな学校で習う歴史の教科書に、慎ちゃんも載ってるよなんて、絶対に言えないけど。

「姉さんの言うような日本に、俺達が変えていかないと……」
「慎ちゃん……」
「できるかなんて今の俺は分からないけど、姉さんみたいに未来の人が分かってるならいいっス」

まるで弟のように私を慕ってくれている慎ちゃんも、れっきとした侍なんだって、その真剣な眼差しが教えてくれた。
この人が、これからの日本を変える人物なんだって……。

「最後に、一つだけ」
「ん?」
「姉さんは、未来の日本に生まれて幸せですか?」

その質問に答えることはせずに、私はただ笑顔で慎ちゃんを見つめていた。


君ガ生キル未来ノ為ニ


(姉さんが笑顔で暮らす日本を作れるなら、人生悪くないっスね)
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