リクエストSS 2

□休息日
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「きたねえ!きたねえぞ!人の純愛弄びやがって!つか、仕事早すぎんだろ!しかもお前、今の音声データ提出したのか!俺もお前もすっげえやらしい声出してんじゃねえか!他にも色んな音入ってるし!」

「それくらい大したことじゃないだろ。聞いたのはあなたの右腕だけだし、彼に聞かれたり見られたりなんて今に始まったことじゃない」

「そういう問題じゃねえ!」

「ずっと欲しかったんだ。あなたの恋人でよかった。大好きだよ、ディーノ」

「嬉しくねえ!」

ひどい言われようではあるが、普段はつれない最愛の恋人に大好きと言われて嬉しく思わない訳ではない。
だがしかし、やはり騙し討ちのようなこれは釈然としない。

釈然としない胸の内をぶつけようとディーノが再び口を開いた時、これ以上ない程複雑そうな顔をしたロマーリオが譲渡に関わる書類一式を持って現れたから、ディーノは慌てて口を閉じた。
今のディーノはロマーリオに頭が上がらない立場なのだ。

「こっちがうちの控えだ。目を通しておいてくれ、ボス」

「じゃあね。愛してるよ。またね」

「くっそ……やっぱ嬉しくねえ……」

涙目のまま突っ伏して、ディーノは全くやる気のない態度で締結書類を流し読む。
しかしすぐに真顔になって飛び起きた。

「ちょっと待て。何だこの条件」

「恭弥が提示した条件だ。条件的にこっちには拒む理由はない。しかも、ご丁寧にもあんたは全ての条件を飲むとも言いやがったからな」

「いや、それは……すまん……じゃなくて、この事業計画と利益分配率」

表向き風紀財団がキャバッローネから買収したことになっているカジノの新規事業計画は、風紀財団が主体となって立てていた。
計画内容は一見なかなか大胆なものだったが、一方で今までの実績に基づいた至極現実的な面もあり、かなりの確率でその通りに収益は推移するだろうと思われる内容に纏まっていた。
その場合、収益は前年を遥かに上回る計算だ。
本来利益は全て風紀財団並びにその関連企業が手にするべきものだが、その関連企業の中に、風紀財団出資元という名目でキャバッローネの名前があった。
しかも提示された分配率に予想利益を照らし合わせると、従来とさほど変わらない程度の額がキャバッローネに入ることになるのだ。

「カジノ事業は勿論、周辺一帯の再開発も計画に入ってる。いずれそれが上手く回るようになればうちに入る金は今までより増えるってことだ。よかったなボス」

「いや……これだと大元の風紀財団に入るのなんて雀の涙だぞ。下手すりゃ赤だ。何考えてんだ、あいつ」

頭をひねるディーノの横で、ロマーリオが髭を蓄えた口元に笑みを刻んでいた。
キャバッローネが持っていた優良経営状態を一旦更地のゼロに戻し、自身の才覚でもってそれまで以上に育て上げる。
そうしてようやく自分はディーノと対等に並び立てるのだと、雲雀は楽しそうに言っていた。
しかし雲雀に固く口止めされているから、ロマーリオはそれをディーノに告げることが出来ない。

「まあ、あんたは十分に愛されてるってことだ」

「は?何が?どこが?」

「その内分かるさ。全部な」

キャバッローネも風紀財団も、この件が公になればすぐに忙しくなる。
トップ同士顔を合わせる機会は増えるだろうが、プライベートな時間を共有するのは当分の間不可能だろう。
暫くは不満もあるかもしれないが、雲雀の真意に気付いた時、それまでの不満など全て吹き飛んでしまうに決まっている。
その時の主の顔を想像すると、どう我慢しても口元が綻んでしまう。

未だ釈然としない表情で書類を凝視するディーノをひとり残し、ロマーリオは上機嫌でテラスを離れた。




2015.04.25
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