Novels 1
□寒くて暖かい夜
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「これ以上ここにいたら本当に風邪ひいちまう。そろそろ部屋に戻るぞ」
背後のディーノにフードを被せられて、恭弥はようやく視線を転じた。
正面に立つディーノにそっと指先を握られる。
その痛いくらいの温もりに、恭弥は初めて全身が冷え切っている事に気付いた。
寒いのは嫌い。
暖かい場所が好き。
けれど、もっとこのまま遊んでいたい。
「多分、明日の朝早い時間なら少しは積もってるから。明日早起きして遊ぼうな」
ぐずる恭弥を宥め、三人は暖房の効いた部屋の中へと戻って来た。
「すっかり冷えちまったな。今夜は暖かくして寝て、明日ちゃんと早起きするんだぞ」
恭弥を弟に託して自室に戻ろうとするディーノの手を、恭弥は握って引き止めた。
「一緒に寝る」
「兄貴と一緒がいいのか?しょーがねーな」
「あなたもだよ。寒いから三人で寝る」
身を引こうとした弟の手も握り、恭弥は二人の飼い主に宣言した。
途端、微妙な表情になって顔を見合わせる兄と弟。
兄弟仲は決して悪くはない。むしろ良好だ。
だからと言っていい歳した男二人、でかい図体並べて1つベッドで眠る趣味はない。
さすがにその申し出は遠慮したいのだが、恭弥は二人から手を離すつもりはこれっぽちもなさそうだった。
兄弟は再び顔を見合わせて、同時に溜息をつく。
つくづく自分達は恭弥に甘い。
「しゃーねーな。けどベッドじゃ狭くて転げ落ちるのが見えてっから、リビングに布団敷いて川の字だ。それでいいな」
「うん」
「布団の用意しとけ。俺は着替える」
「おう。恭弥、お前も手伝え。お前が言いだしっぺなんだからな」
「うん」
弟と恭弥が布団の準備を始めるのを横目に、ディーノは自室に引き上げた。
再びリビングに戻ったディーノが見たのは、床に敷いた布団の上で枕を抱き締め楽しげに転がる恭弥と、苦笑してその様子を眺める弟の姿。
常とは違う寝床が嬉しいのだろう。
「こら、お前ら遊んでないで寝るぞ。明日寝坊したら雪遊びもナシだからな」
「やだ。遊ぶ」
「だったらちゃんと寝ような。おいで」
恭弥と弟が布団に横たわったのを確認して部屋の明かりを落とすと、ディーノも恭弥の隣に横たわった。
「いつもよりあったかい」
両側に大好きな飼い主の温もりを感じて、恭弥はすっかりご機嫌らしい。
「明日もあったかくして遊ぼうな」
「うん」
「でも長時間は駄目だぞ。お前寒いの慣れてないんだから」
「うん」
大きな二つの手が髪や頬を撫でてくれる。
優しくて、温かくて、幸せで。
明日も外は寒いだろうけど、心の中は今と同じ、ぽかぽかと温かいに違いない。
冬の寒さと雪の冷たさ。
そのどちらも、恭弥はもう嫌いではなくなっていた。
2011.12.03