Novels 1

□未来・過去・今
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「あーもー、俺、自分で自分をぶん殴りたい。お前の気持ち全然気付かなくて辛い思いさせたのに、あいつとのやりとり見て嫉妬してりゃ世話ねーよな」

「嫉妬……?」

「あいつは俺だから俺の記憶って事になるんだけどさ、第三者みたいに客観的に見てる『俺』もいて、その『俺』は恭弥になんて事言わせてんだ何て顔させてんだふざけんなって思ってた。お前が可哀想で、でもすげえ可愛くて、だけどそこにいるのは俺じゃなくてそれが悔しくて、あいつに嫉妬した……なあ、こんな俺は嫌いか?」

見下ろす鳶色の瞳は、未来で見た彼の瞳とまるきり同じ色。でもそこには彼にはなかった不安や怯えが滲んでいる。
いつも自信たっぷりで明るいディーノの色とは思えなかったが、今目の前にいるのは未来でも過去でもなく、紛れもなく今この時代にいるべきディーノ。
この時代で出会って恋をしたディーノ。

「あいつの方がいい?俺じゃ、だめ?」

初めての感情をぶつけるべき相手は自分をそんな目で見てくれた事はなかったから、優しく愛してくれた未来の彼に逃げた。
でも彼は自分のものではなくて。

「お前が好き。過去でも未来でもなくて、今のお前が好き。好きって気付くの遅くてお前に辛い思いさせた俺の事なんて、もう嫌いになった?」

嫌いになんて、なれるわけがない。
誰にでも平等に優しくてへなちょこで鈍くてへらへら笑って神経を逆撫でるのが嫌だった。
それなのに嫌いになれのがもっと嫌だった。
嫌で嫌で仕方ない。

でも一番嫌なのは、こんな時どんな風に返せばいいのか分からない自分。
したい事は何でもして、したくない事は何もしない。
それなのに、今自分がどうしたいのか分からない。
分からないから何も言えない。

黙り込んでいるとディーノは一層焦りを滲ませて掻き口説いてくる。
好きだ、愛してる、もう離さない、俺は一生お前のもんだ、その他諸々聞くに堪えない甘ったるい愛の言葉をマシンガンみたいに並べ立てるあたり、さすがイタリア人と言うべきか。

「うるさい。黙れ」

何度言っても愛の言葉をやめようとしないから、強硬手段とばかりに雲雀はディーノの脳天にトンファーを振るう。
涙目でうずくまり、ようやく静かになったディーノの元へ雲雀は近寄ると、ディーノが顔を上げるのを待たずに胸倉を掴み引き寄せた。

「―――!?」

子供そのものの、噛み付くような口付け。未来でディーノと交わしたそれとは、まるきり違う。
初めての口付けを交わしたのは未来の彼だったけれど、自分から口付けたのは今のが初めてだと、目の前のディーノは知っているだろうか。
鳶色を大きく見開いて驚愕するディーノに、ようやく溜飲が下がる。
すると、縛っていた枷が外れたかのように、心がひどく軽くなった。

「好きだよ」

すんなりと口をついて出た言葉。ずっと言いたくて、言えなかった一言。
思いを伝えるのなんて、本当はこんなに簡単な事だったのに。
見開かれた瞳が、やがて細められて一層甘く蕩けそうになる。
未来の彼と同じで、でもほんの少しだけ違う瞳の甘さ。
悔しいけれど、未来の彼の瞳よりも、今のこの瞳が好きだと思った。

ディーノの方から重ねられた唇は切なさを伴う事なく、甘く優く、心地よかった。









2011.10.02
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