Novels 1

□繋いだ手の温もりと
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お囃子が流れる境内を、老若男女が和気藹々とそぞろ歩いて行く。
地元の小さな神社の定例祭とあって、歩けない程の混雑もなければ、敷地の広さも祭りの規模もこじんまりとしたものだった。
けれど、小さな子供にとっては楽しい祭りに違いない。それが親を伴わず兄弟二人だけで出かける事を許されたとなれば、冒険にも等しい。

(俺がちゃんと守ってやらねーと)

両親に固く言い含められたから、だけではない。
七つ年下の弟・恭弥を、ディーノは誰よりも何よりも大切に思っていた。
恭弥が転んだり、危険な目に遭わない様に、ディーノは恭弥の手を固く握ってゆっくりと参道を歩く。
小学校に上がれば行動範囲も広がるものだが、まだ幼稚園児の恭弥にとっては近所の小さな神社ですら遠くの地だった。

初めて足を踏み入れる境内。
賑わう露天。
周囲を埋める大人や子供。

恭弥はディーノに手を引かれながら時折り立ち止まり、その時々で気になったものを凝視する。
普段の生活の中には存在しない、煌びやかで賑やかな空間に恭弥はしばしば歩みを止めてディーノを困らせる。

「急に立ち止まると危ないってば。お前小さいんだから、大人にぶつかったら痛いぞ。ほら」

恭弥は再びディーノに手を引かれて歩き出す。やがて二人が到着したのは、射的の屋台。

「恭弥どれが欲しい?お前の欲しいもの俺が取ってやる」

溢れんばかりに飾られた景品を眺める恭弥が指差したのは、黄色い鳥のぬいぐるみ。恭弥の頭と同じくらいの大きさをしたそれは狙いやすく、きっと簡単に取れるに違いないとディーノは思い、店主に料金を支払っておもちゃの銃を構えた。
けれどディーノの予想に反して、銃身から打ち出された弾は四方八方に飛び散り、景品には掠りもしない。

(くっそ、絶対取ってやる。そんで恭弥に喜んでもらうんだ)

ディーノは七つ年下の弟が大好きだった。
自分と違い口数少なく、あまり表情も変えない子だが、本当に嬉しい時に見せる小さな笑顔は、めったに見る事が出来ない分宝物の様に貴重で、そして綺麗だった。
両親と自分にだけ見せてくれる、恭弥の笑顔。
それをたまには独り占めしたくて、この祭りへは両親の同行を断ったのだった。

(恭弥に笑ってもらうんだ)

だから何としても恭弥の欲しがっているぬいぐるみを手に入れたい。恭弥に喜んでもらいたい。
その一心で軍資金が尽きるまでディーノは銃を構え続けたが、運はディーノに味方しなかった。

「残念だったな、坊主」

がっくりと肩を落とすディーノを見かねて、店主は労わる様に声を掛ける。

「これが欲しかったのか?頑張ったから、持って行ってもいいぞ」

元々景品には安物しか仕入れていない。こんなおもちゃの一つくらい、くれてやっても構わない。しかも相手は子供だ。
そう思って申し出た店主だったが、けれどディーノは、目の前に差し出されたぬいぐるみを受け取りはしなかった。

「ありがとう。けど、俺が自力で取ったんじゃなきゃ駄目なんだ」

誰かの力を借りたものではなくて、自分の力だけで手に入れたものを恭弥にプレゼントしたかった。その望みは、あえなく砕け散ってしまったけれど。
店主に礼を言い、ディーノは心なしバツの悪い顔で後を振り向いた。
恭弥はがっかりしているだろう。
怒って不機嫌になってしまったかもしれない。
代わりのおもちゃを買ってやろうにも、両親からもらった小遣いは底をつきかけていて大したものは買ってやれそうにない。
まず謝るつもりで振り向いたディーノだったが、そこに恭弥の姿を見つける事は出来なかった。
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