Novels 2

□Honey Battle
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「くっそ恭弥のヤロー……ナメた真似しやがって……」

「あっさりハニートラップにかかるあんたも大概だと思うがな」

「単に風邪移したいが為の色仕掛けのどこがハニートラップだ!それを生業にしてる奴らに謝れ!」

「十分じゃねえか。いいから大人しく寝てろ。熱上がるぞ」

「くっそー……」

感情に任せてベッドから身を起こした途端激しい目眩に襲われて、ディーノは再びベッドへと沈み込む。
雲雀との情熱的な一夜が明けた後、部屋に雲雀の姿はなかった。
その代わりとばかりにディーノに残されたのは、咳、鼻水、喉痛、頭痛、発熱といった風邪の諸症状のフルコースだった。

聞けば、昨日ホテルを訪れた雲雀は風邪気味だったと言う。
二言三言言葉を交わしただけでロマーリオにはそうと分かったそうだ。
けれど雲雀が風邪をひくのはよくある事だし、ディーノに看病させたりロマーリオに投薬させたりも同様だったから、今回もそのパターンだろうとのんびり構えていたらしい。

「そしたら今朝になって恭弥の奴、えらく元気にホテルを出て行ってな。てっきりあんたの看病が効いたのかと思ったらこれだ。幼稚な手に引っかかりやがって、マフィアのボスが情けねえ」

ディーノの額に乗せたタオルを甲斐甲斐しく替えながらもロマーリオの口調には労りの欠片もなく、心身ともに弱ったディーノにグサグサと突き刺さる。

「あのヤロー……変な事ばっかり覚えやがって……」

普段から野生動物並みの短絡的行動しか取らない雲雀にそんな知恵が回るなど、誰が思うというのか。
地味で姑息なくせにダメージの強い攻撃に、何だかディーノは泣きたくなった。

「俺、あいつに愛されてる自信がなくなった……」

「熱のある時に考え事をすると悲観的になるもんだ。いいから今日は寝てろ。この程度の症状、あんたの体力なら一日で治る。明日恭弥に報復なり何なり好きにしろ」

「病み上がりのあいつにそんな事すんの可哀想だろー」

頭からシーツを被ってぐすぐすと呪詛を吐き続けるくせに自分をこんな目に合わせた人間の体調を気遣うあたり、雲雀に甘いにも程がある、とロマーリオは溜息をつく。
甘いと言えば雲雀もそうだ。
基本的に他者との接触を嫌う彼が、身体的粘膜的接触を経て風邪を移すなどと言う方法を、果たして他の人間相手に取るだろうか。
考えるまでもなく、答えは否だ。
風邪を移す事を理由にディーノを求めたのか、はたまたその逆なのか定かではないが、どちらにせよそれはディーノへの甘えだ。

今はまだその事に気付かずさめざめと泣く主を一瞥し、ロマーリオは小さな笑みを口端に湛えて部屋を出た。




2014.05.24
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