Novels 2
□Chocolate Kiss
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肘を入れたり足で蹴ったり噛み付いたりとバラエティに富んだ抵抗を繰り返していた雲雀だったが、最後の仕上げであるドライヤーだけは好きなようで、今はうっとりと温風を浴びている。
艶やかに濡れた髪が指通りよくサラサラになり、ディーノはドライヤーのスイッチを切った。
腕の中でこちらを見上げる雲雀の顔には明らかに「もう終わり?」と書かれていて、ディーノは苦笑するしかない。
「終わり。ほら、風呂上がりのお菓子」
「どうしてチョコなの」
「バレンタインデーだから」
「ふうん」
甘味好きな雲雀の口に小さな欠片を放り込む。
現金にも雲雀は暴れもせずに大人しくむぐむぐと口を動かして、やがてディーノの髪を引っ張り口を開ける。もっとよこせと言う催促だ。
「動物の餌付けじゃねーんだ。口で言え、口で」
文句を言いつつもうひとつ差し出すと、雲雀はディーノの指ごと口に含んだ。
「……っ」
濡れた口内の熱さと、柔らかく舌が伝う感触。
指でそれらを感じるや否や妖しい熱が背筋を這い上がり、思わずディーノは息を飲む。
ちらりと見上げてよこす黒い瞳に一瞬挑戦的な光がよぎった気がしたが、すぐにそれは逸らされて、雲雀の意識は再びチョコレートに戻ったらしい。
バスルームでは裸の雲雀に散々触ったけれど、これっぽっちもそういう気分にはならなかった。
それなのに、指を舐められただけで欲情する自分は何なのだ。
どっちが動物だと内心頭を抱えるディーノの気持ちなどお構いなしとばかりに、雲雀は大口開けて欠伸をしたかと思えば、ディーノの膝を枕に寝転んだ。
「こら!甘いもん食ってすぐ寝たら虫歯になるぞ!寝るなら歯磨け!そんでちゃんとベッド行け!」
「どうでもいい。僕はしたい事しかしない」
「駄目!ほら起きろ!来い!」
起き上がるつもりを完全放棄した身体はぐんにゃりしていて重かったけど、ディーノはそれを小脇に抱えて部屋を出ようとした。
「ねえ。あなたにもチョコあげるよ」
見ると、ぶら下がった雲雀の手には銀紙で包まれた小さなチョコレートが握られている。
ぴりぴりと包みを剥がし、現れた濃褐色の塊を、けれど雲雀は己の口に含んでしまった。
「んだよ。俺にくれるんじゃねーの?」
「ん」
ぐんにゃり抱えられていた雲雀は突然伸び上がり、ディーノの首に腕を掛ける。
「うお!」
ぐい、と引かれ、バランスを崩したディーノは無様にその場に倒れ込んだ。
雲雀を下敷きにしてしまったが、流石にこれは不可抗力だ。
「わ、わり……大丈夫か?」
ディーノは全く悪くないのだがいつもの癖で謝ると、身体の下からにょきっと二本の腕が突き出された。
「あ?」
と思った時には腕が首に絡まり、口は柔らかいもので塞がれていた。
それとほぼ同時に口内に入ってきたのは、甘い欠片と小さな舌先。
「バレンタインだから、あなたにもあげる」
唇の表面をちろりと舐めて離れた雲雀は、床に転がったまま事もなげにそう言うが、不意打ちの誘惑を受けたディーノはそうではない。
「おっまえなあ……」
先程顔を覗かせたばかりの小さな欲。今度こそ完全に火がついた。
ディーノは衝動のまま、ぶつかるように口付ける。首に回された腕は外されなかった。
こんな場所でこんな事。動物じみているのは、きっと二人同じだろう。
二人揃って虫歯になるかもしれないと頭の片隅で思いながらも、ディーノはチョコレート味の唇を飽きる事なく貪った。
2014.02.13