Novels 2

□I LOVE CAT
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飼い主が外出している時、ペットは玄関に座り込んで帰りを待っている事がある。
少しでも早く会いたいのだそうだ。

「あいつの気持ちがよく分かる……」

「邪魔くせーな。でかい図体で狭い玄関うろついてんじゃねえ」

「だって恭弥まだ帰って来ないんだぞ!お前は心配じゃないのかよ!」

「古巣に里帰りの何がどう心配なんだ」

古巣。それは即ち恭弥が住んでいたペットショップ。
各家庭に迎えられたペット達は定期健診を除きかつての住まいに出向く事はまずない。その時だって飼い主同伴だ。
飼い主を連れずペットが単独で古巣に戻る。イレギュラーなそれを、けれどディーノ達に飼われるペットは頻繁に、それも当然のように繰り返している。

目的はただひとつ。

「リボーンとの手合わせは今に始まった事じゃないだろ」

ペットショップのオーナーであるリボーンは、可愛らしい赤ん坊の外見からは想像もつかない程の手練だ。そこそこ腕に覚えのあるディーノ達だって多分敵わない。
強い相手と戦いたがる性質を持つ恭弥は在店中もたまに相手をしてもらっていたようで、ディーノ達に飼われてからもちょくちょくトンファー片手に出向いているのだった。
けれどその度に恭弥を溺愛する飼い主は、可愛いペットが戻ってくるまでそわそわと不安げに家中をうろつき兄に鬱陶しがられていた。

「毎回毎回それだけ心配出来る理由が俺には分からねえ」

「あいつあんまりひとりで外出た事ないじゃん。どっかで迷子になってたらどうすんだよ」

「あいつの帰巣本能舐めんな。同じ場所に放置しても絶対お前より先に帰って来る。第一、家と店の往復なんて何回してると思ってんだ」

「店に来た客があいつの事見初めたらどうすんだ!よそんちの子だって分からずに連れてっちまうかもしれないだろ!」

「ある訳ねえだろ。リボーンの組んだセキュリティが半端なく高いの知ってんだろうが」

「金積まれたら分かんねーじゃん!こっそり恭弥を横流しされたらどうすんだよ!」

「お前馬鹿だろ」

「まったくだな」

一番最後に割り込んで来たのは、高く可愛らしい声。
はたと動きを止めた兄弟が辺りを見回すと足元に、黒いスーツに身を包み銃を構えた赤ん坊の姿があった。

「な!リボーン!危ねーもん向けんな!つか、どっから入って来た!」

「店の経営にケチ付ける暇があるなら戸締りくらいちゃんとしとけ。ちょっとピッキングしたらリビングの窓がすぐに開いたぞ」

「開けてんじゃねえ!犯罪じゃねえか!」

「ダレきった危機管理に活を入れる意味合いで、リビングに置いてあったケーキは食っといてやったからな」

「ざけんな!それ恭弥のだ!」

「心配すんな。あいつも共犯だ」

「恭弥一緒なのか!?どこやった!返せ!」

「連れて帰って来てやったのに人攫いみたいな言い方は何だ」

「だから銃向けんなっつってんだろ!」

「おいリボーン……まさかと思うけど、それ、恭弥か?」

頭を抱えながらリボーンと弟の会話を聞いていたディーノが溜息混じりに視線をずらした時、ドアの影に隠れているものに気付いたのだ。

「あ?ああああああ!?」

兄の視線を追ったディーノは、リボーンに対する文句も忘れてすっとんきょうな声を上げる。
ちょこんと座って両手でケーキを食べていたのは、五歳くらいの小さな男の子だった。

「……恭弥?」

「何」

そっけない物言いはまさに恭弥そのもの。
だけれども。

「な、何でこんなにちっさくなってんだ!しかも、何だこれ!何だこれ!」

「……猫の耳と尻尾だな」

「感謝しろよお前ら。今日は特別に、ビフォーアフター十年弾を使ってやったぞ」

「はあ!?」

二人の飼い主は揃って恭弥と思しき子供を見遣る。
当の本人は完全に我関せずで、あぐあぐと無心にケーキにかぶり付いていた。
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