Novels 2

□like a flower
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「ディーノ」

リビングで書類を広げていたディーノに飛び付くと、空いた手で器用に恭弥を受け止めたディーノが、そのまま頭を撫でてくれた。

「あいつ寝てたろ」

「うん」

「ちゃんと起こしてやったか」

「うん。起こしてくれてありがとうって」

「だろうな。うっかり寝落ちた時はアラームなんてセットしないからいつ目が覚めるかなんて分からないもんな。数十分程度ならともかく、数時間の本寝になったらもう終わりだ。いい仕事したな、恭弥」

頭と頬を撫でられた後、ご褒美みたいに同じ場所に唇を落とされる。
くすぐったいけれど褒められたのは嬉しい。温かいキスも。

「ディーノが笑ってくれた。ちょっとだけど話もしてくれた」

「そっか。良かったな」

「本当はもっといたかったけど、邪魔しちゃ駄目だよね。だから帰って来た」

「お。『待て』が出来るようになったんだな。偉い偉い」

髪をくしゃくしゃ掻き回すように頭を撫でられて、大きな掌の下で恭弥は目を細めてその感触を満喫する。
褒められて撫でられる事は大好きだ。その反面、叱られる事は好きではない。
さっきは褒めてくれた勉強中のディーノに、数日前偉い剣幕で叱られた事を恭弥は忘れていない。
その剣幕と、もうひとりのディーノに諭されたお陰で自分が悪かったのだと理解したし、反省もした。
だから

「早く、謝りたいな」

反省して謝れば、ディーノ達は怒りを収めて許してくれる。
だから恭弥は反省後すぐに謝る事にしているのだが、今はきっとその時間さえディーノには惜しいに違いないから。

「明日には試験終わるから。そしたらあいつだって落ち着いて、ちゃんとお前の話聞いてくれる。それまで、もう少しだけ我慢しような」

「うん」

カレンダーの日付に付けられた試験のマークは、あとひとつ。
明日ディーノが帰って来たら、おかえりなさいとごめんなさいを言おう。
話を蒸し返すとまたちょっと叱られるかもしれないけど、それでもいい。
自分を見てくれて、自分の話に耳を傾けてくれて、そして話をしてくれるのなら。
同じ場所にいるのに、姿を見る事も話も出来ないよりはずっといい。

「よし、んじゃ寝っか。おいで恭弥」

背に回されたディーノの手に抗う事なく恭弥が腕の中に収まると、すぐに大好きな匂いに包まれた。
明日にはもうひとつの大好きな匂いにも包んでもらえるといいなと願いながら、恭弥は温かな身体を抱きしめた。
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