Novels 2

□like a flower
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怒った顔のディーノが腕を組んで立っている。その前では不貞腐れた、でも少しだけ不安げな顔で恭弥が正座をさせられている。
こうした飼い主とペットの構図は、実はそう珍しいものではない。
甘えたがりで構ってもらいたがりの恭弥は、ディーノ達の都合などお構いなしだから、意図せず彼らの邪魔をしてしまう事が多々あるのだ。

「もっかい聞くぞ。どうしてお前の部屋に俺のテキストや参考書があるんだ」

何度も繰り返された問いに、けれど恭弥は、ぐ、と口をへの字に噤んだままうんともすんとも言わない。

「どこにあるか知らないかって何度も聞いて、その度にお前は知らないって言ったよな。それが何でお前の部屋のベッドの下なんかから出てくんだよ」

「……知らないよ」

「知らない訳ねーだろ。俺らはお前の部屋になんてそうそう入らねーし、そもそも俺は部屋から一度も持ち出してないんだ。お前が隠したんじゃなきゃあんな所にある訳ねえだろ。昨日俺が大騒ぎして家捜ししてたの知ってんだろ。それ見てこっそり笑ってたのかよ」

「そんな事、してない」

「だったらどうして人の試験勉強の邪魔するんだ。ただでさえ時間がねえって言うのに一日半も無駄にさせやがって」

好き勝手行動した挙句飼い主に叱られるのはいつもの事だから、恭弥は叱責に耐性がある。
ただ、叱る飼い主はいつも兄の方で、恭弥を溺愛する弟は、どちらかと言えば間に入って恭弥を庇う事が多かった。
無論、弟の方に叱られた事は一度としてない。
だから今、いつも甘やかしては何でも許してくれる筈の飼い主に偉い剣幕で叱られて、恭弥はどうしていいか分からない。

ディーノが言う通り、彼の部屋からテキスト類を持ち出してこっそり自室に隠したのは恭弥の仕業だ。
でもそれは、ちゃんと理由があっての事。その理由を口にしようと思うのに、普段怒る事のないディーノが今はひどく怖く思えて、怖気づいてしまう。
結果、恭弥は何を言う事も出来ず口を引き結ぶしか出来ないのだが、ディーノにとってはそれが不貞腐れたが故の反発に見えるのか、攻撃を緩めてはくれない。
怒りの文句と、苛立ち紛れの大きな声。兄の叱り方とも違うそれは、ついに恭弥の許容量を超えてしまった。

「だって、ディーノが悪い」

「何が」

「昨日も一昨日もその前も、ちっとも構ってくれない」

「だから今はそれどころじゃないっつってんだろ。いい加減にしろ」

「その辺にしてやれ。恭弥が泣きかけてる」

「泣きたいのはこっちの方だっつーの」

黒い瞳が涙の膜で覆われつつあるのを見かねた兄が助け舟を出すも、ディーノの怒りはまだ収まらない。
泣きたいと言うのも、決して誇張ではないのだ。この騒動のお陰で一日半もの間、目前に迫った後期試験の勉強が出来なかったのだから。
タイムロス、と言うにはあまりにも痛い。

「これ以上邪魔されたら堪んねえ。恭弥、試験が終わるまでお前は俺の部屋に入るな。今度同じ事したらただじゃおかねーぞ」

釈明は勿論、謝る隙さえ恭弥に与えず、ディーノは足音も荒く部屋に戻って行ってしまった。
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