Novels 2

□迎春
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聞くと、正月の買出しに両親と出掛けた商店街にある花屋の店先で、このブーケを見たのだと言う。
店の中にも外にももっと華やかな花は沢山あったし、奥にはガラスケースで守られた珍しい花もあった。
それらのような華やかさはないけれど、寄り添うように並んでいた清楚なブーケがまるで大好きな両親みたいに見えて、どうしても二人に贈りたくなったのだそうだ。

けれど普段小遣いを貰わないきょうやには、それを手に入れる事が出来ない。
提示された金額が高いのかそうでないのかの判断もつかない。
一度は諦めかけたところに、お年玉という概念を思い出した。
小遣い同様それを貰えるのはまだ先なのは分かっていたけれど、何としてもあの花を二人に贈りたかったのだ。

「わがまま言ってごめんなさい。でもどうしてもパパとママにあげたかった」

何度聞いても用途を教えなかったそれは、両親へのサプライズプレゼント。
それぞれに渡された花は小振りで特別珍しい種類でもない。
グラスに生けられる程度の小さなアレンジメント。きっと金額だってたかが知れている。
けれど二人にとっては、どんな高価な物よりも価値のあるプレゼントだった。

「ありがとう。花を貰うなんて何年ぶりだろうね。嬉しいよ」

「俺しょっちゅう贈ってたじゃねーか!お前が受け取らなかっただけだろうが!」

「あんな派手な花束なんて冗談じゃないよ。あなたよりこの子の方がずっと僕の好みを分かってる。ほら、あなたもちゃんとお礼言いなよ」

「おー。きょうや、ありがとな。すっげー嬉しい。後でドライフラワーにして一生の宝物にすっからな」

外は寒かったのだろう。かじかんで赤くなった左右の頬に両親からのキスを受け、くすぐったいのと照れくさいのと嬉しいのとで、きょうやはきゅうと両親に抱きつく。
この三日間、大好きな両親に触れられなくて寂しかった。
何度も心が折れかけた。諦めてしまおうかとも思った。
でも、二人の喜ぶ顔が見たかったから。
二人からプレゼントをされる度に胸に生まれる嬉しい気持ちを、二人にも感じて欲しかったから。

「お礼に今夜はハンバーグ作ってあげるよ。一番大きいのを君にあげる」

「今夜は一緒に風呂入ろうな。玩具の鳥浮かべて遊ぼうぜ」

「うん」

喜んで貰いたくてした事が、きょうやの喜ぶ事になって返って来る。まるでキャッチボールみたいに。
それを繰り返せば、新しい年はきっと嬉しい事でいっぱいになるのだろう。

今年が、嬉しくて幸せな年に、どうかなりますように。





2013.01.03
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