Novels 2

□迎春
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全国的に元旦の一月一日。

家族や親類縁者と新しい年の訪れを祝い、これから始まる一年に向けて英気を養う日だ。
それに加えて、子供達にはお年玉という楽しみが待っている。額の多少はともかく、降って湧いた臨時収入に皆が胸躍らせるのだ。
けれどお年玉の取り扱いについては各家庭によって異なるから、全ての子供が望むものを手に入れられる訳ではない。

「お年玉、ちょうだい」

元旦の朝。
新年の挨拶とおせち料理をメインとした朝食が済むと、改まって両親に向かったきょうやが口火を切った。

「どうしたの急に。お年玉は君が小学校に上がってからって、前から言ってるだろ」

「今まで欲しがらなかったのに、どした?何か欲しいもんでもあんのか?」

「欲しいものがあるなら買ってあげるよ。何が欲しいの」

「……お年玉が欲しい」

両親の問い掛けにもきょうやはふるふると頭を振るばかりだ。

「何の用途に使うかも分からないのに現金なんて渡せないよ。言えないなら諦めるんだね」

冷たい口調で先に話を打ち切ったのは母親の恭弥。
家庭内の決め事として、息子への小遣いやお年玉といった現金支給はきょうやが小学校に入学してからと決めていた。
五歳児に現金が必要になる筈がないし、息子を溺愛する父親が強請られもしないのに何でも買い与えるから、服も玩具もお菓子も、十分どころかお釣りがくるくらいのレベルできょうやは所持している。
だからきょうやは今まで全くと言っていい程何かを強請る事はなかったのだ。

「パパ……」

母親の態度は変わらないと理解したのか、きょうやは父親の膝上に移り、シャツの裾を小さな手できゅうと握って涙目の上目遣いで強請る。
そんな息子の愛らしさにうっかり懐の財布に手を伸ばしそうになったディーノだったが、冷たい無表情で睨み付ける妻の姿に我に返り、慌てて懐から手を離した。

「必要なら何だって買ってやるぞ。特に今日はお正月だからな。玩具でもお菓子でも、普段はママがぶつぶつ文句言うようなもんでも無条件に買ってやっから」

「僕が文句を言うのはこの子にじゃなくてあなたになんだけど。クリスマスにどれだけ大量のプレゼント贈ったか忘れたの」

「年に一度のクリスマスくらいいいじゃねーか」

「クリスマスだの誕生日だのの名目がなくっても買い与えるじゃないか」

「今年は減らすから!額も抑えっから!だから、なあ、いいだろ?」

「駄目だなんて言ってないよ。この子が強請るなんてまず無かったからね」

「ほらきょうや、ママのお許しも出たぞ。何が欲しいんだ?」

それでもきょうやはへの字に口を噤んだまま頑として答えない。
たまに口を開いたかと思えば小さな声で、お年玉が欲しいと言うばかり。
その度に現金は駄目だと母親に窘められて、結局その日は有耶無耶に終わってしまった。

「なあ、一年前倒しくらいいいじゃん。明日きょうやにお年玉あげようぜ」

「何に使うのか何度聞いても結局答えなかったじゃないか。親に言えない買い物なんてさせられないよ」

「でもあいつ、すっかりしょげちまったぞ」

「どうせTVでお年玉云々言ってるのを聞いて興味持ったんだろ。一晩寝たら忘れてるよ。あなたも、簡単に絆されたりしたらどうなるか分かってるだろうね」

妻が半分どかした枕の下に、銀色に輝く鋼鉄のトンファーがちらりと見えた。

「分かってる!分かってます!」

その威力と妻の腕っ節を必要以上に分かっているディーノは、明日こっそり息子にお年玉をあげようという考えを慌てて改める。

子供の考える事は大抵がその時々で興味を惹かれた事だ。
時間が経てば興味はよそに移るもの。
そう結論付けてディーノと恭弥もベッドに潜り込んだ。

だがそれから三日経っても、きょうやの態度は変わらなかった。
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