リクエストSS

□ランチタイム
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※虫描写注意





雲雀に会うべくやって来た並中応接室。
その扉には『食事中』と大書きされたプレートが掛けられている。

「何だこりゃ」

幾度も応接室を訪れているディーノだがこんなプレートを見たのは初めてだ。
それでも特に気にすることなく、ディーノは景気よく扉を開けて入室した。

「おーす恭弥ー。入るぞー」

どうやら仕事は終わっているらしく、雲雀は定席の執務机ではなく応接セットのソファーに座っていた。

「表のプレート、何だありゃ?メシ食うのにわざわざあんなもん必要か?」

「僕じゃなくてこの子達の食事時間だからね」

指差した先にはガラスのテーブル。
その上には餌皿と思しき大皿と、それに頭を突っ込んで餌を咀嚼するヒバードとロールの姿があった。

「うっ」

好物なのだろう。嬉しそうな彼らの表情は、元々の可愛らしさを引き立てて余りある。
そんな一羽と一匹が美味しそうに食事をする様は愛らしいことこの上なく、それだけ見ると、今雲雀がそうであるように、目を細め口元を緩め微笑ましく見守ってしまいかねないが、餌皿の中身を目視した瞬間、ディーノは低く呻いて硬直した。
皿の中には幾種類もの昆虫や幼虫が大量に蠢いており、それらは絶えずヒバードとロールに食い散らかされているのだ。
一瞬の目視の後慌ててディーノは目を逸らしたが、不幸なことに精神的ブラクラのような光景は脳裏に焼き付いてしまっていた。

「おま……何つーもん食わしてんだ……」

「生き餌はこの子達の好物だよ。好物をもりもり食べる微笑ましい食事風景なのに、どういう訳か他の委員達は見たくないらしくてね。色々話し合った結果、この子達の食事中は室内から出て行ってもらうことで合意に至った」

それはそうだろう。
愛らしい小動物が大量のミルワームを丸飲みしたり、脚や羽根を千切り落としながらバリバリと昆虫を咀嚼する本能丸出しの姿など、出来ることなら見たくはなかった。

「どうしてかな。こんなに可愛いのに」

「うん、まあ、お前にとってはそうなんだろう。視覚的住み分けは大事だよな」

今更部屋を出て行くのもわざとらしすぎて、仕方なくディーノはソファーの端に腰掛けた。
すると、食事中の小動物を見つめていたのと同じ優しげな表情で雲雀は振り向いた。

「丁度いい。その子にもご飯あげるよ」

雲雀の視線はディーノの肩の上に注がれている。
そこには、つぶらな瞳を興味津々に輝かせたエンツィオが鎮座していた。

「カメにとってもタンパク質は大事な栄養だからね」

「タンパク質って言うな!ええと、いや、こいつは普通のカメじゃなくてスポンジスッポンだから、その、特殊な餌が必要なんだ。こいつが巨大化したの見たことなかったか?あの巨体を維持するにはこれっぽっちじゃ足りねーんだ。だから」

「あと10Kgはあるから平気だよ。ほら」

「見せんでいい!いや、そう言えばこいつ来る前に食ってきたんだ!そりゃーもうたらふく!だから腹いっぱいなんだよな!な、エンツィオ!そうだよな!そうだと言え!」

「グ……グァ……」

ディーノはぐりぐりと緑色の頭を指で押して首肯のポーズを取らせた。
不自然極まりない動作だが雲雀は素直に信じ込み、残念そうに生き餌を片付けた。

一方エンツィオは小さな友人達が食べているものが気になるのか、興味深げに首を伸ばしてはその度にディーノに指で押し戻されていたが、機嫌を取るような指使いで顔を撫でられているうちに生き餌はどうでもよくなったらしく、ついにはディーノの肩の上で気持ちよさそうに眠り始めた。
ほっと安堵の息を吐いたディーノがテーブルに目を転じると、いつの間にか全ての餌を食べ尽くしたヒバードとロールがまん丸い腹を上にしてすぴすぴ可愛らしい声を漏らしている。
こちらも食後の昼寝に突入したようだ。
皿の中身は勿論、テーブル上に散らばった生き餌の欠片も雲雀の手で綺麗に片付けられ、ディーノもようやく身体を弛緩させることが出来た。

「うお!」

ぐったりと背もたれに身体を預けた途端、膝の上に何かがどさりと落ちて来た。
落下物は丸い頭。雲雀がディーノの膝に倒れ込んできたのだ。

「きょ、恭弥?」

「この子達にご飯を食べさせて寝かしつけたから、僕も寝る」

「お前はこいつらの母親か……って、まさかここで寝んのか?」

これは俗に言う膝枕。
基本的に他者を寄せ付けない雲雀がこうも無防備に側で眠ってくれるというのは、安心とか信頼とか、とにかくそういうものを自分に感じてくれているのだろうか。
そう思うと嬉しくなり思わずディーノの口元が緩む。
けれどその時、不服そうな顔をした雲雀に思いきり髪を引っ張られた。

「いてててて!何すんだてめ!」

「言っておくけど僕はどこででも眠れるよ。目を瞑って3つ数えるだけだ。その代わり木の葉の落ちる音でも目が覚める。おかしなことでもしようものならその瞬間飛び起きてギミックを作動させたトンファーで頸動脈を掻き切って血塗れの肉塊に変えてあげるから楽しみにしてなよ」

「具体的に言うのやめろ!」

「そうされたくなかったら、その子達が起きるまで起こさないことだね。おやすみ」

そう言い放ち雲雀が目を閉じたまさに3秒後、ディーノの膝からすうすうと健やかな寝息が聞こえてきた。
肩上とテーブル上からもすぴすぴと可愛らしい寝息が上がっている。

「ちょっと待て。俺はこのままか」

眠る小鳥とハリネズミと亀と仔猫からなる寝息サラウンドに囲まれてディーノはげんなりと頭を抱えたが、やがて苦笑して目を閉じた。
サラウンドの一端を担うのも悪くないと思った。





2015.04.11

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