リクエストSS

□飛花
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どう言えば伝わるかと考え込んでいたら、いつの間にかディーノ達も顔を上げて思い思いに桜を愛でていた。

「綺麗だな」

「それに静かだ」

それきり口を噤んだディーノ達の上に、静かに密やかに花弁が降り積もる。
吹き込む突風が豪奢な金髪を煽る。
周りに広がる沢山の淡色が舞い上がり、ディーノ達の姿を隠してしまう。
けぶる視界に不安を覚え、恭弥は二人のディーノに抱き着いた。

「お?どした?」

当たり前ながらディーノ達はちゃんとそこにいて、確かな力強さで恭弥を抱き止めてくれた。舞い散る花弁も変わらず可憐なそれだった。
桜が意思を持って悪戯をする訳がないのだけれど、どうしてだか今のあの一瞬だけ、儚げな花弁を怖いと感じたのだ。

後に畏怖だと教えられたその感情を押し込んで、恭弥は二人のディーノを見上げた。
訝しげに見下ろす顔にいつもの色を見て取って、二人の腕の中でようやく恭弥は力を抜いた。

「風が強くなってきたな。そろそろ帰るぞ」

抱き着いた恭弥が安堵したのを見計らったようにディーノが帰宅を促した。
まだ日は高いけれど、吹き付ける風は先程よりも冷たくなっていた。

「うわ。お前ホコリ塗れじゃん」

引き摺り起こした恭弥を見るや否や、ディーノはバンバンと服や身体を叩き始めた。
寝転んでいた恭弥の身体や髪には草と土がべったり付着し、汚れ放題だったからだ。

「家帰ったら丸洗いな」

「服が?僕が?」

「両方に決まってんだろ」

「兄貴、帰ったらこいつ風呂に入れといてくれ。その間に俺は晩飯の支度すっから」

「僕、ハンバーグが食べたい」

「弁当に沢山入れたじゃねえか!今日はもう駄目です」

「ケチ」

静かな一角に響き渡る賑やかな声の数々。
去り際に恭弥は振り返り、愛でる者がいなくなっても尚美しく咲き誇る桜をその目に焼き付けた。
明日も明後日もその次の日も、この桜は誰にも気にかけられることなく、ひっそりとここに在るのだろう。

春の桜。夏の陽射し。秋の紅葉と冬の雪。
ディーノ達と見る季節の移り変わり。何巡しても一度として同じ景色ではありえない自然の美しさ。
ディーノ達に飼われるまで知らなかったそれらを、ディーノ達と一緒に何度でも見たい。

(来年も見たいな)

美しく畏れるにも足るこの桜を。桜に負けず綺麗な彼らと共に。

「恭弥ー。早くこねーと置いてくぞー」

遠くから自分の名を呼ぶ声が聞こえる。
彼らが自分を置いて行く筈がないのを知りながらも恭弥は駆け出した。
先で待つ二人の手を取った時、冷えた指先が優しく温められた。




2015.04.04
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