リクエストSS

□grow up
2ページ/2ページ

言われた通り、雲雀にはまだそういった経験がない。
雲雀としてはディーノと、いつそうなってもいいと思ってはいるものの、当のディーノにはそのつもりがなさそうなのが目下の悩みでもあった。
過去のあれこれを全て知るこの時代の自分が、勝ち誇ったような嫌な笑みを浮かべている。
その様にも、言い返す事の出来ない自分にも腹立たしさを覚え、きつく睨みつけても彼は何とも思っていないらしい。
それどころかとんでもない事を言い出した。

「丁度いい。この人に教えてもらいなよ」

一瞬、何を言われているのか分からなかったのは、どうやらディーノも同じらしい。は?という顔をして首を傾げている。

「あの人が君に手を出さないのは君が余りにも子供だからだよ。この人相手に経験して、一通り手順を覚えてから過去に戻ればきっと抱いてくれる」

「な……!?おま、何言い出すんだ!」

「あなただってたまには毛色の変わった相手をつまみ食いしたいだろ。他の人間相手は絶対許さないけど、この子は僕だしね。僕の見ている前でなら、かろうじて許容範囲内だ」

「だめだろ!こっちの恭弥はまだバージンなんだぞ!」

「だから仕込み甲斐があるんじゃないか。つべこべ言わずにさっさと犯しなよ」

「出来るか!」

ようやく言葉の意味が分かり、それでも認識したくなくて呆然としていた雲雀だったが、二人の遣り取りを聞いていたら次第に腹が立ってきた。
この時代の自分へは勿論、でもそれ以上に苛立ったのはディーノの態度。
この時代のディーノとどうこう、など、露程も思っていなかったが、こうまであからさまに拒絶の態度を取られると、反抗心がむくむくと頭を擡げてくるというものだ。
雲雀は言い合う二人の間に割り込むとディーノの胸ぐらを掴んで引き寄せた。

「教えなよ」

「恭弥?」

「セックスのやり方。この人相手にしてる事、全部しなよ」

「子供の君が耐えられるとも思えないけどね」

「あなたは黙ってて」

ちゃちゃを入れるこの時代の自分を睨みつけてから、雲雀は再びディーノに向き直る。
ぐいぐいと襟を引っ張り催促するも、ディーノは困ったような顔をして頭を撫でてくるだけだ。

「あのな。こいつは面白がってるだけなんだから、あっさり挑発に乗っちゃだめだろ。だから子供だって言われるんだぞ」

「子供じゃない」

「うんうん、そうだな。子供じゃない。だったら、そう言うことをそう簡単に言っちゃいけないのも分かるよな」

少し屈んで頭を撫で、瞳を細めて諭す姿は、丸きり子供に言い含める父親そのものだった。
子供じゃないと言った側からこんな真似、これが子供扱いの最たるものだと悔しく思う。
横目で見遣れば、この時代の自分がつまらなそうに腕を組んでいる。勢いをなくした自分に興を削がれたのか、それとも、ディーノにべったりくっついているのが不満なのか。

(不満なのはこっちの方だ)

だって彼はディーノと対等だ。二人の会話からそれが分かる。ディーノの態度からも。
どんなにやめろと言っても子供扱いをやめなかった彼なのに。
自分の知らない十年はそれ程までに大きいのか。幾ら張り合っても選んでくれないのかと不機嫌に口元をへの字に歪めた時、ディーノがふっと笑った。

「そういう所は変わらないんだな」

「何」

「表情とか仕草とか、大元は何年経っても変わらない。でも歳を重ねるごとに少しずつ、知らず知らず変わっていく部分も増えていく。それが大人になるって事だ。人間誰しも一足飛びに大人になんかなれねえよ。俺はこいつが大人になっていくのを一番近くで見てきた。お前を大人にするのも、その過程を見守るのも、俺じゃなくてあいつの仕事だ」

あいつ、と呼ばれた元の時代のディーノに、何だか無性に会いたくなった。
上手く言葉にならないモヤモヤや苛立ちを、今目の前にいるディーノではなくあの人にぶつけたい。
文句を言って、トンファー片手に暴れ尽くして、思い切り咬み殺す。
そうやって自分がすっきりした頃を見計らい、あの人はへらりと笑って構ってくるのだ。

この人と同じ暖かい手。同じ色。同じ匂い。
でもやっぱりどこか違う人。

「バズーカの修理が終わったよ」

いつの間にか部屋を出ていたこの時代の雲雀が、大きなバズーカを担いで戻って来た。

「この子に撃ち込めば過去に戻せるそうだよ」

「本当に大丈夫なんだろうな。代わりにお前が過去に行ったりしないだろうな」

「それはそれで楽しそうだね。昔のあなたをからかって遊ぼうか」

「だめだよ。あれは僕のだ」

「そう言うなら、身体込みでさっさと君のものにしなよ」

「だから!そう言う事言うなっつーの!」

「勿論だよ」

「お前も乗せられんな!」

口端を上げてバズーカを構えるこの時代の自分。彼は全部知っている。あの人への恋情や、そのせいで抱える戸惑いと不安も。
そして、あの人といつ、どんな風に結ばれるのかも。

「またね」

また、がいつなのか知らないが、次に来る時は何かが変わっているといい。二人に子供扱いされないように。

大きな爆発音が響く。辺りを包む白煙が頭の中にまで入り込んだかのように、意識が白く塗り潰されていく。
最後に見えた金色の髪と蜂蜜色の瞳。
同じ色を持つ、彼とは違う人に早く会いたいと思った。



2014.04.12
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ