リクエストSS

□grow up
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なんの兆候もなく『ソレ』は来た。
頭の中で音が反響しているような不快感。
思わず瞑った目の奥が真っ白に漂白されていく。
座っている筈なのに、天地が逆さまになったようにも思える奇妙な感覚。
ここじゃないどこかで爆発音が聞こえた気がした。

(来る)

そう思った瞬間、雲雀の意識は白く塗り潰され、やがて新たに彩色される。
それは、馴染のない感覚ではなかった。




「今までも誤作動はあったよ、確かに。でも今度という今度は我慢ならないね。そこどいてよ。ボヴィーノ潰してくる」

「だめ!同盟ファミリー襲うな!つかボヴィーノはただの同盟相手じゃねえだろ!ランボのファミリーだろ!守護者のファミリー潰してどうすんだ!」

「あんなヘタレ牛の事なんてどうでもいいよ。それよりバズーカの暴発による僕の怪我の方が大事だ」

「弾がジャケット少し掠っただけで、どこも怪我なんてしてねーじゃん!被害ってんならお前が盾にした花瓶の方がでっかいだろ!アレ幾らしたと思ってんだ!」

「すぐ金銭換算するのやめてくれる。守銭奴みたいでみみっちいよ」

「お前にだけは言われたくねえ」

耳鳴りが収まり、意識がはっきりし始めた雲雀の耳に、今度は言い争うような声が聞こえてきた。
よく知っているような、そうでないような、不思議な声。
それでも雲雀の胸にはある予感が芽生えていた。

(……やっぱり)

恐る恐る瞼を押し上げ声のする方を見てみると、そこには見知った二人の男の姿があった。

「あ、恭弥」

視線に気付いたのか、男のひとりが駆け寄ってくる。
ディーノによく似た、でも少しだけ違う男。これは十年後の彼だ。
そして、その隣にいるのは。

「何だ。生きてたの」

「お前なあ!少しは労れ!誤作動でタイムトラベルすれば身体に負担が掛かるんだろ!」

「そうやってここに来るのは初めてじゃないだろ。殺しても死なないから平気だよ」

心配げに顔を歪めるディーノと違い突き放したような言い方をする黒スーツの男の事も、雲雀は知っている。
十年後の自分だ。

十年バズーカの被弾や誤作動で連れて来られたのは一度や二度ではないから、さすがに覚えている。
さっきの会話を思い起こすに、今回はこちらの世界のバズーカが暴発し、それにこの時代の自分が接触した事が大元の原因らしかった。
彼が更に十年後の自分と入れ替わらず、過去の存在である自分がここに呼ばれたのは、誤作動の範疇か。

何度も似たような事を体験していれば、嫌でも現状認識力は上がるというものだ。
それでも、この時代の自分の傍若無人ぶりだけは順応出来そうにない。

「ごめんな恭弥。今ボンゴレ科学班がバズーカの修理してるから。直れば元の時代に戻れるから、それまでもう少しだけ我慢しててな」

雲雀が予想した通りの説明の後、ディーノは優しく雲雀の頭を撫でた。
元の時代の彼と同じ、大きくて暖かい手。香る匂いも、髪や瞳の色も同一だった。
こうしてディーノに触れられるのは嫌いじゃない。
もっと近くで彼の香りを嗅ぎたくて、雲雀はディーノに身を寄せた。
途端、刺のある声が後ろから飛んで来た。

「その人から離れなよ。僕は、自分のものに他人の匂いがつくのは嫌いなんだ」

「何言ってるの。元になってるのは僕の時代のあの人なんだから、この人は僕のだよ。そもそも客に茶も勧めない失礼な人に命令される謂れはないね」

「君なんか呼んでないよ。飛んで来たのが昔のこの人だったら呼び甲斐もあるけど、君相手じゃつまらない。客扱いされたいなら大人しく部屋の隅で正座でもしてなよ」

「待て待て待て。どうしてお前らはいつもそう喧嘩腰なんだ」

雲雀同士の舌戦に慌てたディーノが割り込んで来たから不毛なやり取りは一旦収めたが、根本的に雲雀はこの十年後の自分が嫌いだった。同族嫌悪という奴だ。
どうやらそれは向こうも同じらしく、顔を合わせるだけでも嫌味を言ってくる。
この時代のディーノと親しくしようものなら、今みたいに大人気なく引き離す有り様だ。

「昔の自分が可愛くないのかよ。もうちょっと優しくしてやれ」

「こんな生意気な子供が可愛い訳ないだろ。今すぐにでも咬み殺して地べたに這い蹲らせて屈辱に顔を歪ませてやりたいくらいだ」

「すんな!」

「こっちの台詞だよ。あなたなんか僕がいないと存在出来ないくせに」

「お前も煽んな!」

「弱いくせに口だけは達者だね」

「誰が弱いって」

二人の雲雀から紫色の炎が立ち上る。どちらも遜色ない程大きく純度の高い炎だ。
しかもいつの間にか雲雀達の手にはそれぞれのトンファーが握られてすらいた。

「人んちで喧嘩すんな!部屋半壊させる気か!」

「あなたがハッキリしないのも悪いんだよ」

「そうだよ。セックスも出来ない子供なんて興味ないって言ってやればいいんだ」

「ふしだらな事を言うのも子供呼ばわりするのもやめてくれる」

「その反応が子供だって言うんだ。君はまだ性を知らないだろ。この人を悦ばせてあげる事すら出来ないのに、大きな顔しないでほしいな」

「それくらい出来るよ」

「へえ、どうやって?」

「それは……」

そこで雲雀は口籠ってしまう。具体的な方法が分からないからだ。
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