リクエストSS

□贈り物
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どうしたのかと不安げに見守っていた恭弥の前で二人揃って顔を見合わせ、そして二人はようやく得心がいった晴れやかな顔になった。

「そういや今月誕生日だったっけ」

「すっかり忘れてたな。毎年気が付くと過ぎてんだよなー」

「前後に節分やバレンタインデーっていう二大国民的行事があるのが敗因だよな。そっちに気を取られてる内につい忘れちまう」

「月初の平日なんてクソ忙しくて日付の感覚もおかしくなるからなー」

「……ちょっと待ちなよ。誕生日に触れられたくないんじゃなかったの」

「何だそりゃ」

カラカラと屈託のない笑顔を振りまく飼い主達に縋り、恭弥はリボーンから聞いた悲しい話を懸命に伝えた。

「バッカじゃねーの。んなドラマみてーな話がそうそう転がってる訳ねーだろ」

「大体、誕生日をすぐ忘れるって笑い話はリボーンのいる場で何度もしてんだ。あいつが知らない筈ねえよ」

「じゃあ……」

騙されたのだとようやく思い至り、恭弥の全身から力が抜ける。
騙された事への怒りは勿論ある。でもそれ以上に、自分のした事が何の意味もなかったのだと知り悲しくなった。

だって一生懸命考えた。祝われたくない誕生日を、それでも大切なものだと思ってもらいたくて。
ようやくこれを見つけた時は飛び上がらん程嬉しかったけど、こうして明るい場所で見てみればただの見すぼらしい草でしかない。
欲しいものは何でも手に入るであろう彼らに相応しい筈がなかったのだ。

「……これ、捨てる」

「何でだよ。俺達へのバースデープレゼントなんだろ?」

「ただの草なんかもらっても嬉しくないだろ」

「バカだな。寒いの嫌いなお前がこんなに冷たくなってまで探してくれた宝物、嬉しくない筈がないだろ」

クローバーを握った手を取られ、手の甲に口付けられた。
小さな接触なのに、それだけで心も身体も暖かくなる、不思議な口付けだった。

「ありがとな。一生の宝物だ」

「ひとつしかないから意味ないよ」

にっこり笑った顔が眩しすぎて、恭弥は慌てて視線を逸らす。
でも逸らした先にも満面の笑顔が待っていてどうしていいか分からなくなってしまった。

「一晩水につけておいて、その後は乾燥させてプレスしよう」

「そういや押し花を栞にしたものが売ってたな。これもそういう加工が出来るんじゃねえか?」

「じゃあ恭弥、これで作った栞はお前が持ってろよ」

「それいいな。お前いつも本読んでるから実用的だ」

「やだよ。だってそれはあなた達にって……」

「だからさ、たったひとつしかない宝物をガサツな俺らが二人で使ったらすぐ傷んじまうだろ。恭弥なら丁寧に使ってくれるから安心だ」

「俺達の宝物、大事にしてくれよ」

恭弥は手を握られたまま両側から軽やかなキスを受けた。
髪に、頬に、鼻先に落とされる度に嬉しくて、でも擽ったくて身をよじる。
そんな恭弥を二人のディーノは楽しそうに笑って抱き締めた。

「来年はちゃんとやろうな、誕生日。俺らが忘れてても恭弥が覚えててくれんだろ」

「お祝いしてくれるんだろ?」

「したい……けど、お金持ってないから……」

だから何も買ってあげられないと腕の中で項垂れる恭弥だったが、その耳朶に笑みを乗せた唇が寄せられて、ぴくりと身体を竦ませた。

「俺達の欲しいもんなんてひとつしかないの、お前が一番よく分かってるだろ」

「う……」

「楽しみにしてるぜ」

「するな」

真っ赤になって睨み付けても、ディーノ達に堪えた様子はこれっぽっちも見当たらない。

「んな強く握ったら萎れちまうだろ」

思わず握り締めた拳を広げ、ヨレヨレになったクローバーを取り上げられた。
それを手際よく水に浸し、空になった恭弥の手は二人に引かれバスルームへ連行される。
恭弥がすぐ風邪をひく体質なのを知っているからだ。

いつだって大事にされて甘やかされて、こんな見すぼらしい贈り物を喜んで、宝物だとまで言ってくれた。
さっきは怒ってみせたけど、彼らが望むのなら何だってあげる。
自分が持っているものはこの心と身体しかない。それが欲しいと言うのなら、今すぐにだって差し出してもいい。
そんなものが、誕生日の祝いになるのなら。

「あ」

思わず恭弥は足を止めた。
お祝い。誕生日のお祝い。
リボーンに聞かされた話はただの出任せだったのだから、おかしな気遣いなどもういらないのだ。

「恭弥?」

歩みを止めた恭弥をディーノ達が訝しげに振り返る。
大好きな二対の瞳を見据えて恭弥は息を吸い込んだ。

「もう過ぎたけど、誕生日おめでとう」

誕生日を祝う言葉をちゃんと告げたかった。
二人の顔を見て、自分の言葉で。

「……ありがとう」

虚をつかれたような顔が見る間に笑顔に変わっていく。
はにかむような、照れくさそうなそれは、恭弥が初めて見る笑顔だった。
またひとつこうやって、恭弥の中に宝物が増えていく。
彼らが産声を上げた時に降っていただろう雪のように、静かに、密やかに。

雪の中に咲く花を見るような心地を覚え、知らず恭弥の口元にも笑みが浮かんでいた。



2014.02.23
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