リクエストSS

□贈り物
1ページ/3ページ

基本的に恭弥は自分の都合でしか動かない。思い立った時にしたい事をする。
相手にも都合があるかもしれない、とはあまり考えないのだ。
だから、目的を果たせず空振りに終わるのはよくある事だった。

「今日は無理だぞ」

その日も恭弥は突然思い立ち古巣へ出向いていた。目的は手練のオーナー、リボーンとの手合わせだ。
大抵の場合空いた時間を利用して相手をしてくれるのだが、今日は彼の部屋を訪れるなり取りつく島もなく断られてしまった。
けれど恭弥はその事で不機嫌にはならなかった。室内には珍しい景色が広がっていたからだ。

「花屋にでも転向するの」

部屋の中は色とりどりの花達で埋め尽くされていた。
どの花も例外なく瑞々しく肉厚の花弁を持ち、全てが高価なものだと一目で分かった。

「あと一ヶ月でツナのママンの誕生日なんだ」

ツナというのはペットショップの運営を手伝っているリボーンの知人だ。
よく手作りの料理を差し入れてくれたその母親の事は、恭弥も幾度か見かけた事がある。
明るくて優しそうな女性だった。色とりどりの華やかな花はさぞかし彼女に似合う事だろう。
けれど、一ヶ月もの間これらをどうするつもりなのか。幾ら何でも渡す前に枯れてしまうのではないだろうか。
そう言うとリボーンは何でもない顔で答えてくれた。

「ここにあるのは全部サンプル用だ。実際に色や形を見て葉や花弁に触れてみて、誕生日プレゼントに一番相応しい品種を選ぶんだ。それとこっち」

リボーンが、ずっと向き合っていたモニターを指差す。
覗き込むとそこには、こちらも色とりどりの宝飾品の数々。

「花も宝石も最高級の物を贈ってやる」

「随分太っ腹なんだね」

「ママンにはいつも世話になってるからな。イタリア男たるもの、世話になってる女性の誕生日に全力投球しなくてどうすんだ。そうでなくとも、大事な人の誕生日を祝いたいって思うのは当然だろ。お前だって飼い主達の誕生日は盛大に祝ってやったんじゃねーのか?」

「え?」

恭弥はハタと考え込む。飼い主達の誕生日を教えてもらっていなかった事に、今更ながら気付いたのだ。

「いつ」

「何がだ?」

「あの人達の誕生日」

「知らねえのか?」

「……聞いてない」

何となく言いにくくてボソリと告げると、リボーンは含みのある顔で口を開いた。

「二人揃って2月4日だ」

「2月4日……」

思わず恭弥は呆然と呟いた。だってそれはついこの間だ。
当日は勿論、前日も翌日も、誕生日のたの字も出なかった。
どうして教えてくれなかったのだろう。何も出来ないと思われたのか。だとしても、お祝いの言葉くらい掛けたかった。

「まあ、誕生日の取り扱いについては各家庭色々あるからな」

分かり易く拗ねだした恭弥を宥めるようにリボーンは切り出した。

「誕生日ってのは必ずしもめでたいもんでもねえ」

「どうして」

「望まれずに生まれて来た場合は思い出したくない日にもなるって事だ」

ボルサリーノを目深に被り直すと、リボーンの表情は恭弥からは完全に見えなくなった。

「不義の子だったり、無理矢理孕まされた子だったり、出産に耐えきれず子を産み落とした母親が死んじまったなんて話も珍しくねえ。そんな家庭じゃ子供の誕生日なんて忌むべき日だろうし、子供自身がそれを知ってりゃその日は何もしたくねえだろう」

「そんな……」

お日様みたいな力強い笑顔。ディーノ達はいつだって朗らかに楽しそうに笑ってくれる。
そんな悲しさを抱えてるなんてこれっぽっちも思わなかった。

(どうしよう)

思い出すのが嫌だから。知られたくなかったから。だから自分に誕生日を教えなかったのだろうか。
なのに知ってしまった。それも、本人達ではない人の口から。
それはディーノ達の望むところではないだろう。それなのに。

「……僕、帰る」

「おう。気を付けてな」

肩を落とし、トボトボと部屋を出て行く恭弥は、目深に被ったボルサリーノの下でリボーンの口元が楽しげに持ち上げられた事に気付かなかった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ