リクエストSS

□RECALL
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その後、玩具で遊びたいと言う希望を叶える為、ディーノはかつての子供部屋に足を踏み入れた。
幼少時に使っていた部屋は今もそのままにしてある。他の空き部屋のように保管庫代わりにするには狭すぎるし、何より、年配の部下や使用人が室内の処分を拒んだのだ。
彼らにとっては『小さなディーノ坊ちゃん』の、思い出深い場所なのだろう。

「つっても、恭弥が楽しめるもんなんてあったかな」

ざっと見たところ、狭い子供部屋にあったのは子供用のベッドと勉強机と絵本の入った本棚の他には、ぬいぐるみがいくつか。
どれも、今時の子供が楽しめる物ではなさそうだ。

「恭弥?」

町に玩具でも買いに行こうかと思案するディーノをよそに、雲雀はぬいぐるみのひとつで遊び始めた。
子供にとっては抱える程の大きさの、丸く黄色い鳥型のぬいぐるみ。恭弥はそれを撫でたり抱き締めたりして遊んでいる。

「それ好きか?」

「うん」

「ヒバードに似てなくもねーかな。お前昔っから丸っこいの好きだったんだな。よし、じゃあこれは恭弥にやるよ」

「……でも、よその人から物をもらっちゃ駄目って言われてる」

「言ったろ。俺はお前の父さんの友達なんだ。だったらお前とだって友達だ。友達にプレゼントするのもそれをもらうのも、全然おかしな事じゃねーだろ」

「友達……?」

「こいつももうお前の友達だよ。恭弥と一緒がいいって」

丸いぬいぐるみを雲雀の前にかざすと、それとディーノを見比べていた雲雀が、やがて小さな手でぬいぐるみを抱き締めた。

「ありがとう」

浮かんだのは、決して満面の笑みではない。
けれど、瞳を細めて口元を綻ばせた幼子の小さな笑みに、ディーノは胸を締め付けられるような心地を覚えた。
十年前も今もめったに見せない雲雀の笑顔。それが今、惜しげもなく自分に向けられてここにある。

(あーくそ……)

小さくて綺麗なこの笑顔を、もっと見たい。
小さな雲雀にもっと喜んでもらいたい。
この時代の雲雀が戻るまでソツなく遣り過ごせばそれで済んだ筈だったけれど、それじゃ何も知らず連れて来られた小さな雲雀に失礼だ。

幼くたって雲雀は雲雀。本気の全力で相手をしないと、きっと怒るに決まっている。
この子がここにいられるのは最長二十四時間。
短い時間だけど、それまでの間目一杯相手をしよう。
少しでもこの子が喜んでくれるように。小さな笑顔を見せてくれるように。

「よーし、今日はこの後もいっぱい遊ぼうな」

小さな身体をぬいぐるみごと抱き上げると、思った通り、雲雀は大きな目をきらきらさせて口元を綻ばせてくれた。
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