リクエストSS

□RECALL
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十年前に出会った時から雲雀は他者と友好関係を築く事を嫌い、ディーノは必要最低限の会話すら成立させる事が出来ず、頭を抱える事も多かった。
だがそれは、どうやら持って生まれた性質だったようだ。
過去から飛ばされて来た幼い雲雀は、右も左も分からない事だらけだろうに、泣くでも問い掛けに答えるでもなく、じっとディーノを睨み据えている。恐らくは、不審者にガンを飛ばしているのだろう。

「どーすっかなー、これ……」

「元に戻るまでちゃんと面倒見てやれよ」

「んな事言ってもこいつ、うんともすんとも言わねえ。見た目外傷は無さそうだしさっきは一言だけ喋ったから呼吸や喉も大丈夫そうだけど、見えない部分に万一何かあったら」

「ヒバリの扱いには慣れてんだろ。噛まれない距離を保って意思の疎通に励んどけ」

「俺は猛獣使いか」

「似たようなもんだ」

無責任なリボーンの言葉はともかく、確かにこの場に雲雀を扱える人間は自分を除いては皆無だ。

「うし」

ディーノは気持ちを切り替えて、全身で様子を伺っているらしい雲雀に近付いた。
手を伸ばせば届くかどうかと言うギリギリの距離で足を止め、しゃがみ込む。
目線が合った事で警戒は多少薄れたのか、雲雀は逃げる素振り無く、黒く大きな瞳でじっとディーノを見つめている。

「初めまして。俺はディーノ」

にっこり笑い掛けても笑顔を返してはくれない。
けれど口元が小さく動いた。ディーノ、と、反芻しているらしい。

「えっとな、俺は恭弥のお父さんの友達なんだ。今日はお前と遊ぶ事になってたから、俺んちに来てもらったんだ」

「下手な嘘吐きやがって」

「うっせえ。事態の収拾に協力しないんならお前は黙ってろ」

リボーンにはそう言うも、ディーノだってそう思わないではないのだ。
第一ディーノは雲雀の家庭環境を知らない。よもやこの時代父親不在と言う事はないだろうが、雲雀の事だ、油断は出来ない。
けれどどうやら幼い雲雀は穴だらけの言い訳を信じてくれたようで、見るからに警戒を解いてくれた。

「恭弥は何歳になったんだ?」

まずはどの時代の雲雀なのかを確認しなくては。
雲雀は胸の前で握っていた手を広げてみせた。五歳、と言う事だろう。と言う事は二十年前の彼か。

「二十年前ってのは成功したな」

「まだ位置の任意設定は出来ねーんだろ」

「ああ。あいつは二十年前の並盛にいる。もっともこいつが並盛外に住んでたら、また話は変わってくるがな」

「えーと、恭弥の家は並盛町にあるんだよな?ここに来るまで家にいたのか?」

「うん。猫と遊んでた」

「猫飼ってんのか?」

「庭に遊びに来てた」

「恭弥は猫が好きなんだな」

「動物はみんな好きだよ」

「そっか。あ、じゃあ馬はどうだ?厩舎に何頭かいるから見せてやる」

「馬、見たことない。見たい」

「よし」

手を伸ばして髪に触れても抵抗はない。
どころか、抱き上げても嫌がられなかった。

「ヒバリを誑かすのはお手のもんだな」

「おかしな言い方すんな」

「最長二十四時間後には元に戻る。それまでそいつの面倒見てろよ」

「あいつちゃんと帰って来るんだろうな。こいつはちゃんと帰れるんだろうな」

「そん時になりゃ分かる。後は任せたぞ。ちゃおちゃお」

「てっめえ!」

喚いてみても既にリボーンは窓から出て行ってしまった後。
成す術なく溜息をついたディーノは、くい、と髪を引っ張られて顔を上げた。

「馬、見る」

抱き上げた雲雀が、催促の意を込めてくいくいと髪を引っ張り続ける。
今の雲雀も十年前の雲雀も、ディーノの注意を自分に向ける時、よくこうして髪を引っ張ったものだ。
五歳でも雲雀は雲雀だと思えば何だか嬉しくなる。

「よーし、行くか」

真っ直ぐ見つめる黒い瞳に笑い掛けて、ディーノは雲雀を抱いたまま厩舎に向かった。

生まれて初めて本物の馬を見た雲雀は、最初こそ怖がってディーノにしがみついたままだったが、生来の動物好きの血が騒いだか、やがておずおずと手を伸ばして顔やたてがみを撫でていた。
その間一言も口をきかなかったけれど、真っ黒な瞳はきらきら輝いて、喜んでいるのだと知れた。
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