リクエストSS

□ETERNITY
1ページ/4ページ

「珍しい客人だね」

主の執務室をノックすらせず開けて我が物顔で入り込んだ雲雀の前には、応接用のテーブルに座る二人の男の姿があった。
この屋敷の主、ボンゴレ十代目沢田綱吉と、同盟第三位キャバッローネファミリーのボス、ディーノだ。

「ええと雲雀さん、無断で俺の部屋に入って来た第一声がそれっておかしくないですか」

綱吉は苦笑して苦言を呈するも、雲雀の傍若無人ぶりは今に始まった事ではない。
それに、確かに当初は大規模ファミリー同士のトップ会談だったけれど、仕事の話はとうに終わり、今はボス同士酒を酌み交わしていた所だったのだから聞かれて困る話もないのだ。

「よー恭弥。お前も飲むか?計画が成功した祝い酒だ」

「悪巧み、だろ」

「人聞きの悪い事言わないで下さいよ」

「他者を動かして労力なく利益だけを得るのは悪巧みじゃないの」

「それだってやり方のひとつです。どうぞ」

ぶつぶつ文句を言うくせに部屋の主自ら雲雀にグラスを渡す。
中を満たすのは暗い赤色をしたワインだ。

「飲む前に渡しておくよ。依頼されていたデータだ」

「ありがとうございます」

「封筒の中に報酬の振込先が入ってるから目を通しておいて」

「あのですね、この仕事はボンゴレのボスである俺が部下である雲雀さんに指示した、いわゆる通常業務の範囲ですよ。別途報酬が発生する意味が分かりません」

「風紀財団と関連施設を動かした。掛かった経費くらいは払ってもらうよ」

「そんなの雲雀さんが勝手にやった事じゃないですか!」

「うるさいな。文句があるならそのデータ寄越しなよ。僕が個人的に有効利用する」

「あああ分かりました!分かりましたよ!払えばいいんでしょう!」

「最初からそう言いなよ。昔から君は鬱陶しい男だね」

主を主とも思わぬ雲雀や雲雀に頭が上がらない綱吉の様子に、ディーノはにこやかな笑顔を浮かべる。
昔と変わらない二人の遣り取りに、十年前に戻ったような心地になるのだ。

「けど昔と違って今やツナは立派なドン・ボンゴレだもんな。ここ数年縁談話も増えてるって話じゃねえか」

十年前はただの子供だった彼らは、今ではもう立派にファミリーを背負っている。それは彼らを取り巻く外部共通の認識だ。
代替わりした若いボンゴレとよしみを通じたいと思う輩は多い。それの最たる方法が、婚姻による関係の強化だった。
話を振られた綱吉は見る間に渋面を作る。

「全部断ってますけどみんな諦めないんですね」

「そりゃーボンゴレと姻戚関係になれんなら、一度や二度断られたくらいで諦めねえよ」

「キャバッローネだってそうでしょう。俺なんかより沢山の話が来てるんじゃないですか」

「俺も断ってるぜ。結婚なんてする気は起きないしな」

「うちと違ってそちらは世襲だから跡継ぎも必要でしょう?部下の人達だって本音では望んでるでしょうし」

「たまたま世襲で十代続いただけで必須じゃねえよ。そこらへんはあいつらとも話しつけてっから心配すんな。んで、お前は?目ぼしい縁談相手はいなかったのか?」

「政略結婚なんて俺はこれっぽっちも考えてません。だいたい俺には好きな人がいるんですから」

「ああ、了平の妹か。そっちはどうなんだよ。進展したか?」

「してたら縁談話なんて舞い込んで来ないでしょう」

「そりゃそうか。俺でよけりゃいつでも相談に乗るぜ。縁談話の断り方も女の子の扱い方も、俺の方がお前より経験豊富だからな」

「必要になったら教えを乞いに伺います」

綱吉は言外に、それまでは引っ掻き回さないでくれと含ませておいて、その場を和やかな飲み会の席に戻した。






並盛だけで完結していた雲雀に外の世界を見せたのは、ディーノだった。
小さな世界しか知らなかった子供はやがて広い世界を見聞し、より強い相手、困難を伴うけれどやりがいのある仕事、報酬と言う名の対価を知って大人になった。
岐路に立った時、決断に迷った時にはさり気無く背を押してくれたディーノに不満げな態度を取ってみせたけれど、心の中では感謝だってした。

ディーノと出会ってからおよそ十年。そんな風に過ごす内に、雲雀の胸に芽生えたのは彼への信頼。
決して口にはしなかったが、彼が自分を教える立場である事が誇らしかった。強さや知識以外にも、朗らかな笑顔や飾らない人となりを好ましく思うようになった。
その一方で、沢田綱吉はじめ他の人間にも自分と同じように接する姿に苛立ちもした。
その苛立ちが嫉妬心だと自覚した時、ディーノへと向かう恋情を認めない訳にはいかなかった。

だからと言って気持ちを告げるつもりはなく、二人の関係は師弟として同盟ファミリー間の付き合いに留まっていた。
けれどこうしてディーノの縁談話など聞いてしまえば、心穏やかではいられない。
今はまだ結婚する気がないとは言え、いずれは相応しい相手を娶るのだろう。ディーノはあんな事を言ったけれど、どう考えたって今のキャバッローネにとって世襲に勝るものはないのだ。

ざわつく胸の内をワインで押し流し、表面上はいつもと変わらぬ無表情のまま、雲雀は親しげに談笑する二人のボスを見つめる。
綱吉の様にディーノへの思慕を素直に表す事が出来ていたら、今の関係は少しは違ったものになっていただろうか。
詮も無い事を考えながら、ささやかな飲み会は続いた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ