リクエストSS

□仲よき事は美しき哉
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「ケンカはだめって言ったのに」

「またトイレに起きたのか……」

前日同様きょうやに非難の目を向けられた親達は、再度の嫌な予感に顔を見合わせる。
気のせいか、昨日は父に向けられていた非難の目は、今朝は母に向けられている気がする。

「……僕が何をしたと」

「ママ、パパの上に乗ってパパを苛めてた。パパが、もうやめろって」

「苛めてないから。全くもって苛めてないから」

「いやあれはお前が悪いぞ。お前の騎上位はシャレになんねーんだよ。フェラでイく寸前になってるもんを中で散々締め付けた挙句腰振られてみろ。お前より先にイかないように俺がどれだけ必死だったか分かってんのか」

「ふぇらって何?」

「君はそんな事知らなくていいんだよ。あなたも子供の前で卑猥な言葉使わないで」

「苛めてないの?」

「苛めてないよ。あなたもまともに釈明しなよ」

「おう。きょうや、おいで」

とてとてと走り寄ったきょうやを父は抱き上げて、膝の上に座らせた。

「夕べはちゃんと仲良くしてたぜ。こんな風にママを膝に乗せてぎゅーってしてたんだ。だから心配すんな」

言葉通り父親に抱き締められて、きょうやはちょっとだけ安心する。
きょうやはこうして抱き締められるのが大好きだ。自分は母親そっくりだと言われるから、きっと母もこうされるのが好きなのだろう。
ならば、仲良くしていたと言うのもあながち嘘じゃないのかもしれない。
自分が見たケンカの場面の後で仲直りしたのだろうか。

けれど父の首筋に顔を埋めたきょうやは、昨日母の肌に見慣れぬ痕を見たのと同様に、普段は見る事のない痕を見る羽目になる。

「パパ」

「ん?」

「どうして髑髏の絵の上に歯型があるの?」

「……だから噛むなって言ったじゃねえか……」

「仕方ないだろ。上に乗って興奮すると噛みたくなるの、あなただって知ってるくせに」

「昨日の今日なんだからちっとは加減しろよ」

「あなただって噛まれるの好きじゃないか。噛んだ途端僕の中で大きくしておいて何言ってるのさ」

「好きだけど!好きだけど!けど!」

「ケンカ、だめ」

「してねえ!お前も何とか言え!」

「やっぱり暫く夜の生活は控えよう。この子の教育に悪い」

「ええ!?そんなんやだ!」

「いい年して子供みたいな言い方しないで。可愛くも何ともない」

「ひでえ!」

「ケンカ、だめ―――!」

ぎゃんぎゃんと言い合いする両親を前に恭弥は顔を顰めるが、その原因が自分などと露ほどにも思っていない。
どころか、どうして自分の両親はこんなに仲が悪いのだろう、とすら思う。
幼稚園の友人達に話を聞くと、どこの家庭でも親達は言い合いも、夜中にどちらかがどちらかを苛めたりもしていないと言う。
激しい口論を重ねていた両親が次第に大人しくなり、やがてまた笑みを浮かべながら唇をくっつけているのを見ても、夜になればまたケンカをするのだと思えばきょうやの気分は沈んだままだ。

きょうやの膝の上で、鳥とハリネズミがそわそわと顔を見合わせる。
人語を理解する彼らは、しかし人語を発する事が出来ない。
きょうやの両親は、そこらの家庭の親達よりずっと仲良しで、きょうやの心配は杞憂なのだと伝える術がなく、焦れながら身体を擦り付けて今日も幼子を慰めるのだった。







2012.10.12
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