リクエストSS
□仲よき事は美しき哉
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「でもまだ安心出来ないよね。僕のいない所でまたケンカしてるかもしれない」
一度駆られた不安を取り除くのは容易ではない。
かくしてきょうやは頭の上に鳥とハリネズミを乗せて、両親の寝室を覗きに行ったのだ。
小動物達を連れてきたのは、もし両親がケンカしていたらこの子達を放して和んでもらおうと思ったから。
父も母もこの子達に滅法弱い事を、ちゃんときょうやは知っている。
余程慌てていたのか、寝室のドアは閉まり切らず隙間が開いている。
その間からそっと覗いたきょうやの視界には、ベッドの上に隣り合って腰掛ける両親の姿。
父親は情けない顔をしているし、反対に母親は怖い顔をしている。とても仲良しムードではあり得ない。
きょうやはきゅうと手を握って両親の攻防を見守った。
「まだあの子が分かっていないからいいものの、成長して僕らのしてる事が何なのか理解した頃だったらどうする気」
「すまん……」
「あの子がもう少し大きくなったら控えるよ」
「ええ!?それは勘弁!マジ勘弁!俺は生涯現役のつもりなんだぞ!十年後だって二十年後だってお前を可愛がってやりてえのに!」
「あの子に聞かれたり見られたりなんて冗談じゃないよ。あの子だって両親のセックスなんて見たらショックだろうし」
「その辺はちゃんとすっから。ちゃんと気をつける。あんま激しくしないようにすっから。な?」
きょうやにはさっぱり分からない会話だが、母親が何やら怒っていて父親が必死で機嫌を取ろうとしているらしいのは知れた。
いつ出て行ってケンカを止めようかとハラハラしていたきょうやだったが、父の必死の懇願が効いたのか母は次第に態度を軟化させ、二人寄り添うように身体を近づけていた。
「今度は気をつけっから、今夜もいいだろ?」
「夕べ散々したのに、元気だね」
「そりゃ、お前を前にして元気にならねー訳ねえし」
「……あそこ責めるのやめてよ。声出ちゃうから」
「可愛い声聞きてーけど、またきょうやに誤解されんのも困るしな。今夜はお前が主導権取れよ」
「それならいいよ」
やがて両親は互いの身体に手を這わせ、幾度も唇を重ねる。
キス、と言う言葉をきょうやは知らない。
けれど、両親が唇をくっつけているのはよく見ている。
それは何なのかと聞いたとき、両親は、大好きな人に大好きな気持ちを伝える為にするのだと言っていた。
父は、母と自分にしかしないと言ったし、母は、父と自分にしかしないと言った。
そして二人の唇が頬に押し当てられた時はくすぐったかったけど、頬も、そして心も温かくなって嬉しい気持ちになった事を覚えている。
きっと今の両親もそんな気持ちなのだろう。
何故なら、唇を離した二人はとても幸せそうに微笑んでいたから。
ならばもう大丈夫だと判断して、きょうやはその場を離れた。
これでもう大丈夫。明日はきっと仲良くしててくれる。
世話の焼ける両親だと内心ひとりごち、きょうやは利口なお供達と自室に戻った。
けれどきょうやは翌朝再び両親を叱りつける羽目になる。