リクエストSS
□仲よき事は美しき哉
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「ケンカはだめだよ」
とある休日の朝食の席。
本来和やかである筈のそれは、きょうやの発した一言で緊迫した。
「すげー切羽詰った顔してっけど、どうした?」
「ケンカって何の事」
「パパとママ、ケンカしてたじゃないか。仲良くしなきゃだめだよ」
夫婦は顔を見合わせて首を傾げる。思い当たる節がないからだ。
「夕べ、ケンカしてた」
両親から明確な反応を引き出せず、焦れてきょうやは言い募る。
「ママ、いやだって、やめてって泣いてた。ママを苛めちゃだめ。ケンカはだめ」
「待て待て待て!それはケンカじゃなくて……いってえ!」
「何を口走る気か知らないけどあなたは黙ってろ」
「殴る事ねーじゃん!」
「ママも、パパ殴っちゃだめ」
「ああ、ごめんね。手が勝手に。僕らはケンカなんてしてないから心配しなくても大丈夫だよ。ほら、おいで」
母親の膝上で抱かれ、背を撫でられていると切羽詰った気持ちもじきに和らいだが、母親の肌に不審な痕を見つけてしまいきょうやは再び顔を顰める。
「ママ、この赤い痕何?沢山あるよ。虫?」
「――――っ!!」
途端テーブル上に突っ伏す父親が、まさかテーブルの下で母親に思い切り脛を蹴られているなど思いもせず、きょうやは無邪気な疑問を口にのせた。
「虫刺されかな。ああ、痛くも痒くもないからそんな顔しなくていいよ。後で寝室を徹底的に掃除して、変な虫は根こそぎ退治するから。暫くはこんな痕つかないようになる筈だから平気だよ」
虫呼ばわりのみならず、暫くは夫婦間の営みは無いと宣言されたも同然のディーノは、脚の痛みに加え精神的苦痛ですっかり涙目だ。
「ひでえ。お前抱けなくなったら俺どうなると思ってんだよ」
「ひどいのはあなただろ。我慢出来なくなるからあんな抱き方するなって言ったのに」
「我慢出来なくて泣いちまうお前が可愛いからしょうがねーじゃん」
「だく?」
「そこに反応すんな!」
「いいからあなたは口を開くな。抱っこの事だよ。ほら、今君もされてるだろ。それにしてもどうして寝室の声なんて聞こえたのかな。この子の部屋とは離れてる筈なのに」
「夜トイレに起きたら聞こえたの」
「一人で行けたのかい。すごいね」
「僕はもう五歳だよ。トイレくらい一人で行けるよ」
「大人になったなー。けど、俺達の寝室事情に首突っ込むのはもっと大人になってからでいいからな」
「黙れって何度言えば分かるのかな。あなた後で顔貸しなよ。ゆっくり話をしよう」
最初は険悪な雰囲気が漂ったものの、次第に両親共一見いつもの調子に戻り、きょうやは少しだけホッとした。