リクエストSS

□pursue
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それでも最初は双方様子見だったのだ。
相手の規模を計り、様子を伺いつつ攻めては退く戦法が一変したのは雲雀のせい。
その戦いぶりに、彼がキャバッローネの人員などではなくボンゴレ雲の守護者だと敵の多くが気付き始めたのだ。
キャバッローネのボスのみならずボンゴレの守護者の首をあげる事が出来れば、幹部への昇進は約束されたも同然だ。

相手方のなりふり構わぬ攻撃をかわし、ディーノ達は着実に敵を仕留める。
やがて街の人達の安全を確保し終えたキャバッローネの人員も参戦し、勢力も単純な強さもキャバッローネが敵を上回り始めた。
漫然と攻撃していたのでは勝ち目は無いと踏んだ相手は、ディーノと雲雀への集中攻撃に切り替えた。

思いがけず分断されてしまい、ディーノは雲雀の側に向かう事すら出来ない。
雲雀に向けて四方八方から銃弾が攻めるのを視界の隅に認めても、手を出す余裕はディーノの側にはなかった。
寸でのところでかわしトンファーで受け止め続けた銃弾の一発が、鉄製の街灯に当たって跳ね返る。
予測しなかった方角からの跳弾を避けきる事は雲雀と言えども不可能で、咄嗟に身を逸らしたものの跳弾は左腕を掠めてしまった。

「恭弥!」

「掠っただけだ。いちいちうるさいよ」

雲雀の言葉通り、ぱっくり裂けたスーツとシャツの下には一条の弾線が浮き出ていたがそこからの出血はさほどではないようだ。
ディーノは安堵に胸を撫で下ろすが、掠り傷とは言えその身に攻撃を許した事が気に入らないのか雲雀は眼光に鋭い光を湛え、眉を跳ね上げる。

トンファーを振り上げて射撃者を片端から倒していく勢いは、まさに鬼神さながら。
リボルバー式の拳銃では雲雀のスピードに着いて行けないと踏んだか、連射式のマシンガンが雲雀の動きを止めようと、走り続ける足元を狙う。

「恭弥!跳べ!」

通り沿いに点在する店先を蜂の巣にしながらも銃弾の僅か先を走る雲雀は無傷だが、雲雀の目の前には行き止まりの壁が迫っていた。
スピードを殺す事なく利き足に力を込め、襲撃者達の中心に跳び込む。
叫んだディーノのみならず、誰もがそれを予測した。
けれど雲雀は不自然に失速し、慣性を振り切ってその場に膝をつく。

「恭弥!」

雲雀に何が起きたか理解は出来ずとも、生まれた隙を見逃す事はいかなるマフィアと言えどする事はない。
とどめとばかりに銃弾が雨のように雲雀の身に注がれる。
勝利を確信した男達は、しかし次の瞬間手酷い反撃に遭う事になった。

雲雀は、取り出した紫色の匣に同色の炎を注入する。
感情が炎の大きさと強さを左右しがちな雲雀らしく、勢い良く飛び出したハリネズミの纏う炎は膨大なものだった。
主の意を受けて匣アニマルは増殖し、敵をなぎ倒す。
かろうじてそれを避けられた者達はことごとく鉄製の武器の餌食となった。

「おっまえなあ!俺にも残しとけよ!」

「ちんたらやってるあなたが悪い」

ようやく自分の周りの敵を片付け雲雀と合流したディーノが苦言を呈するも、当の本人は涼しい顔だ。
恐れをなし戦意を喪失した人間など、取り押さえる事は容易い。
数にものを言わせたキャバッローネの男達に片っ端から身柄を拘束され、追い立てられる彼らにはこの後拷問と言う試練が待っている訳だが、雲雀にとってはそんな事どうだっていい。
この場の抗争に参加し、暴れられさえすればそれでよかったのだから。

銃撃戦が終息し、街の人々が安堵の表情で戻って来た。
抱き合い、無事を喜ぶ家族。
泣く子供を宥め、あやす母親。
敵対組織への恨み言とシマを守ってくれたキャバッローネへの賛辞を口にする人々。
騒がしくも明るい光景に背を向け佇んでいた雲雀の元に、ディーノが戻って来た。

「大丈夫か?」

「こんなの掠り傷だって言ったろ」

「それじゃねえ。右足の方だ」

ぴくり、と眉を寄せ、雲雀は不機嫌そうな表情で鼻白む。

「あれだけのスピードで走ってた奴が急に止まれば足に負担が掛からない筈がねえ。普通の奴なら足首壊したっておかしくなかったんだぞ」

「僕は人類としての性能が違う。これくらいどうって事ない」

あの時の動作で雲雀が足首を痛めたのは事実だ。
けれどそんな事はおくびにも出さなかったし、動き一つ取っても通常時と遜色なかった筈だ。
だから、ディーノと言えど気付く訳がないと思っていたのだ。

「あんな目まぐるしい戦局でよくそんな事に気付いたね。こっちの状況なんて見てる暇なかっただろ」

「ファミリーのボスを舐めんなよ。どんな状況に置かれても全体を見渡せなきゃ的確な指示なんて出せねえ。俺は頭の後ろにも目があんだよ」

「ムカつくな。暗に僕が周りを見られない無鉄砲者だって言われてる気がする」

「昔はそうだったな。けど今のお前はそうじゃない」

雲雀を石段に腰掛けさせ、自分はその場に跪き患部の具合を診ていたディーノは、足首に落としていた視線を上げて、離れた場所で子供の無事を喜ぶ母親と、母親に抱かれた幼い子供を見つめた。
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