リクエストSS
□Sensitive Heart
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鍛えろと、かつての師に宛がわれたのは恐ろしく凶暴で腕の立つ少年。
その時点でも強かった少年を更に強くするのはとても楽しい事だと思ったし、その役目を自分が手にすると言う事は誇らしいとも思った。
戦っている時の顔つきはとても十五歳の子供とは思えない程剣呑だったが、戦闘モードを解いた雲雀は大人びただけのただの子供だった。
(ちっせーなー)
日本人の中学生の平均体格がどの程度かなんて知らないし、同年代の綱吉達と比べてもさほどの差異は見出せない。
けれど、人種の違いと理解していてもディーノの目には雲雀はあまりに細く、小さく見えた。
しゃがみ込み、頬杖をついて見つめるその先で雲雀は立ち上がり、水の入ったボトルを傾ける。
真横からの視点のせいか、尚の事雲雀は細く華奢に見えた。
「お前さ、ちゃんとメシ食ってんの?」
肉体の強化には幾つも方法がある。勿論筋トレだってその一つだ。
けれどまだ身体が出来上がっていない子供に対しては、負荷を与えるよりも日々の食生活を改善させる方が自然だし、身体に掛かる負担も少ない。
それ故の問いだったのだが雲雀は返事をするどころか、ディーノを見ようともしない。
(シカトかよ)
可愛くねーの、とひとりごち、それでも自分の成すべき事を思い出しディーノも立ち上がった。
「うわ、ほっせー」
「な……!?」
突然の接触に驚いた雲雀が見たものは、自分の腰を掴んでいるディーノの両手。
「離せ!」
身を捩り手足を振り回すものの、ディーノはそれらを器用に避けて手を離そうとはしない。
それどころか
「全然筋肉ついてねーじゃねーか。こんな身体のどこにあんな破壊力あんだよ。すげーなお前」
脇腹、胸、背中とぺたぺた無遠慮に這い回る手は、やがて二の腕にまで到達する。
「肩も腕も全然出来上がってねーじゃん。肉食え、肉。魚でもいいけど、とにかくタンパク質摂れ。つか、ちゃんと三食食ってんのか?」
「うるさいよ。あなたに関係ないだろ。さっさと離せ」
「関係大ありだ。俺はお前の家庭教師なの。リボーンに指名されたの。弟子の体調管理は大事な役目だろ。ほら、もっかい背中触らせろ」
「いやだ。どけ」
「大人しくしろって」
雲雀の抗いなどあっさり封じ込めると、ディーノは雲雀の身体つきを検分すべく各所に手を這わせ筋肉の具合を確かめた。
「も……やめ……っ」
関節部に触れる時はさほどではないが、皮膚の薄い場所を手指が掠める度に雲雀は大きく身を捩り、手足を振り回して激しく抵抗する。
「んだよ」
「触るな!」
「触んなきゃわかんねーだろ」
同じようなやり取りを数度繰り返した後、ようやくディーノは一つの事に思い至る。
「もしかして恭弥、くすぐったがり?」
「な……そんなんじゃない!」
「ふうん」
試しにと、捕らえた腕を伸ばさせてその付け根で指を遊ばせる。
「や、だ!」
途端に暴れてディーノの手を引き剥がそうとする雲雀を見て、ディーノは目を細める。
「誰もが怖がる風紀委員長が擽られんのに弱いなんて意外だな。何だ、お前にも可愛いとこあんじゃん」
「うるさい!離れろ!」
「嫌だね。実戦じゃ相手の弱点攻めるのなんて基本中の基本だぜ。悔しかったら反撃してみろよ」
「こ、の……!」
怒りが力に変わったか、雲雀はディーノの拘束を力任せに振り解き、息を切らしながらも武器を構える。
そんな雲雀を楽しげに見遣り、ディーノもまた己の武器で応戦する。
結局日が暮れるまで二人は休む事無く戦い続け、師も弟子も傷だらけでボロボロの姿をそれぞれの部下に晒す事になった。
物騒な出会いから始まった二人の関係は、やがて恋人同士と言う関係に落ち着く事になる。
思いを交わし、初めて二人きりで迎える甘い夜。
いざ愛撫を施さんと雲雀の白い肌に触れたディーノは、手酷い抵抗と筋力の増した反撃に遭ってその時の事を思い出す羽目になる。
くすぐったがりは感じやすさの裏返しだと身を持って知ったディーノが、念願叶って思いを遂げるまでかなりの時間が掛かる事になった。
2012.06.16