リクエストSS
□本日の攻防戦
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ディーノの来日目的は、観光でも遊びでもなく仕事なのだそうだ。
合間の時間を雲雀との手合わせその他に当てているのだと言われてはいた。
けれどそれはあくまでもディーノの側の事情であって自分には関係ない。師であると言うのなら、自分の望む時に望む方法で全力で手合わせをすべきである。
それが雲雀の言い分だ。
無茶な言い分を、それでもディーノは可能な限り何とか聞いて来たが、仕事がある以上何とか出来ない時だってある。
そしてそんな時に限ってじゃじゃ馬な教え子のバトルスイッチが入るのは、ある種の法則でもあるのだろうか。
「相手しなよ」
高級ホテルの一室。
執務室代わりに使っている部屋のドアを景気良く蹴り壊して入室した雲雀に、部屋の中にいた人員は一瞬全ての動きを止めた。
「だーかーらー!出来ねーっつってんだろ!」
流石と言うか、一番先に我に返ったのは部屋の主。
恐らく慣れの差だろう。
「見ろ、この書類の山。この決済終わらせるまで他の事出来ねーの」
「そんなの僕には関係ない」
「うお!」
雲雀はしたい事しかしない。
更に言うなら、したいと思った事は何でもする。相手の都合などお構いなしだ。
ディーノの頭部目掛けて振るったトンファーは間一髪避けられ、その代わり山のように積まれた書類が犠牲になった。
「てめ!大事な書類に何すんだ!この紙の束がどれだけの大金動かすと思ってんだ!」
「風紀の財源にならないものはどうでもいい」
「よくねえ!」
已む無くディーノが鞭を構えるのを見て雲雀は瞳を煌めかせる。凶悪この上ない笑顔は最大限に喜んでいる証拠。
ようやく自分と戦うつもりになったかと雲雀は身を躍らせるが、期待に反してディーノの武器は自分を攻撃する事はなく上半身にぐるぐると巻きついてしまった。
「離せ!」
「はい終了」
あっさり雲雀の身柄を確保したディーノはいささか疲れた声を出す。
部下と共にいる時のディーノは無敵だ。まだ荒削りな雲雀など、仔猫にも等しい。
「なーロマ。この決済終わったら時間取れっか?」
「明日同じだけの量を頑張ってくれたらな。夜までにはその仕事も終わんだろ」
「つー訳だ恭弥。夜には時間出来っから、それまでいい子で待ってろ」
「やだ。僕は今がいい」
「お前な、少しは譲歩っつーもんを覚えろよ」
「うるさい」
「いいからとりあえずそこのソファーに転がってろ」
雲雀は身柄を拘束されてもじたじたと暴れ、少しも大人しくしない。
それが尚更猫っぽくて、何だかディーノはおかしくなる。
だからつい猫にするように首根っこを摘んだのだが、その瞬間
「ひゃ!」
思いも寄らないおかしな声が聞こえた。
もしかしなくても、出所は雲雀の口。