リクエストSS
□a cursed nuisance
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のどかな筈の学び舎に暗雲が立ち込めているように見える。
それは気分的精神的比喩ではあるが、あながち間違ってはいないと沢田綱吉は思っている。
恐らく、善良な一般生徒に伝えたら同意を貰えるくらいには、その認識は全校に広がっているようだった。
闊達な生徒の多い並中を、時に恐怖のどん底に叩き落すのはいつだって例外なく最凶の不良兼風紀委員長の雲雀恭弥一個人。
暴力的な彼の振る舞いには常より多くの生徒や教職員が怯えもしたが、今日はそれに輪を掛けて被害者が続出している。
遅刻や校則違反は言うまでも無く、三人以上で固まっていると『群れている』と言う理由でことごとく咬み殺された。
綱吉たちも例外ではなくまさにたった今、屋上で獄寺・山本の三人で昼食を取ろうとしたところを問答無用で叩き出されたばかりだった。
「だいたいアイツは何様のつもりなんスかね!学校はアイツの私物じゃねーってんだ!」
「いつもより機嫌悪そうだったなー。案外腹減ってたんじゃねーか?メシ分けてやればよかったかもな」
「んな訳あっか!」
「まあまあ二人共、早く食べないと昼休み終わっちゃうよ。教室に戻ろう」
二人を急かし教室棟に戻る途中綱吉は、本来この場にいる筈のない人物に遭遇した。
「ディーノさん!」
「お、ツナ。いい所に来てくれた。なあお前ら、恭弥見なかったか?」
「ああ!?ヒバリなら何が気に入らねえか知らねえが、あっちこっち咬み殺して回ってるぞ」
「あー……朝から機嫌悪かったんだよなー。夕べはいつも通り可愛く甘えてくれたのに」
「……ええと」
気にしたら負けだと思いつつ、さらっととんでもない事を言われた気がして綱吉は言葉に詰まるが、他の二人にとってはどうでもいい事だったらしい。
「ディーノさんの言う事なら聞くんじゃないか?」
「どうでもいいから屋上行ってヒバリどうにかしろ!てめーアイツの師匠だろうが!」
「おう。ちょっと恭弥の機嫌直してくんな。またな」
三人に手を振りディーノは階段を駆け昇る。
何があったか知らないし知りたくもないが、ディーノに任せれば大丈夫だろうと綱吉が胸を撫で下ろした瞬間、上の階から大きな破壊音が響いた。
「何事―!?」
次いで、我先にと逃げ惑う生徒達が降りてきたせいで階段は人波で溢れてしまった。
「ヒバリとディーノさんかな」
「何呑気にしてやがんだ、てめ!跳ね馬のヤロー失敗しやがったな!」
「それよりこの人波どうにかしないと。このままだと怪我人出ちゃうよ!」
するとどこからともなく学生服にリーゼントの集団が現れた。
「押さず、走らず、静かに我々の指示に従い移動するように」
雲雀の暴走の後始末は慣れているのか、副委員長の草壁を筆頭に風紀委員達が右往左往する生徒達を下階へ誘導し始めた。
「避難訓練みたいなのな」
「訓練じゃねえ!紛れもなく本番だ!」
戦々恐々としながら校庭に移動した綱吉達は、息つく間も無く、無残に破壊された教室の窓ガラスを呆然と見上げた。
「あれって……」
「ヒバリと跳ね馬っすね」
「きっと中も景気よくぶっ壊されてんだろうなー」
思い思いの感想を胸に綱吉達は、暫くの間不便を強いられるであろう学校生活にぐったりと思いを馳せた。