リクエストSS

□苛立ちの裏返し
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暖かく良く晴れた放課後の屋上。時折り吹く風が心地良い。
昼寝でもしたらさぞかし気持ちがいい事だろう。
けれど生憎と今はそんな気分にはなれない。
全ては目の前の男のせいだ。

「んだよ、こえー顔して」

「うるさい。早く手合わせして」

「いいけど、職員会議が始まるまでだぞ」

「そんなのどうでもいいって言ってるだろ。あなたは僕の相手だけしてればいいんだ」

「俺は生徒を特別扱いしない主義なの」

「何でさ。あなたは僕の家庭教師なんだろ」

「カテキョーもガッコの先生も変わんねーよ……あーそっか」

「何」

「『皆のディーノ先生』じゃ嫌なんだ?」

何かを考える前に、雲雀は怒りに任せてトンファーを振り下ろしていた。
かちりと合った視線の先、覗き込む鳶色の瞳が楽しげに煌めくのが見えた。まるで悪戯が成功した時の子供みたいな目。
楽しげで、そのくせどこか意地悪げな色がひどく雲雀の気に障った。

「いってー!死んだらどうしてくれるんだよ」

咄嗟に避けて掠っただけなのに大げさな事を言うディーノはまだ笑ったまま。

「それやめて」

「どれ」

「ヘラヘラ笑うの。あと、苗字で呼ぶの」

「しょっちゅう俺笑ってんじゃん。苗字呼びは皆そうだぜ。ツナの事だって校内で会った時は沢田って呼んでるし」

誰かに向けるのと同じ笑顔を向けられるのが気に入らない。
誰かと同列に扱われるなんて許せない。
教師だとも師だとも思っていないけれど、教える立場に立つと言うなら教える相手は自分だけであるべきだ。

「こらこらこら!まだ戦うなんて言ってねーだろ!」

「うるさい。さっさと応戦しなよ」

「ったく、このじゃじゃ馬生徒め」

結局なし崩しに手合わせする羽目になり、何とかディーノがじゃじゃ馬な仔猫の身柄を確保した頃には、二人共散々な有様だった。

「こんなカッコで会議出たら、他の先生達に何て思われるか……って、こら待て!ばい菌入るから傷口触んな!じっとしてろ!」

「……っ」

雲雀の頬の傷や切れた口端にディーノの舌が触れる度そこが熱を持つのも動悸がするのも、きっと動きを止めた直後で心拍数が下がっていないせいだ。
決してディーノを意識している訳ではない。
それなのに

「何ガチガチに緊張してんだよ。普段はもっとすごい事してんのに」

言いたくない事を言われて睨み上げると、同じように傷だらけになった顔が笑いかけた。
さっきまでのように隔たりのある笑顔じゃなくて、いつも自分に向ける柔らかな笑顔。

「ん……っ」

ぺろりと口端の傷を舐められて、唇が塞がれた。
学校だからか深く重なる事なくすぐに離れてしまったけれど、キスはキスだ。

「これも、他の生徒にしたの」

「する訳ねーだろ」

「イタリアじゃ挨拶だろ」

「口はねーよ。それに日本の学校で挨拶代わりにキスだのハグだのしたら問題だろ」

「なら何で僕にはするの」

「お前だからに決まってんだろ」

「特別扱いはしないんだろ」

「生徒はな」

ディーノは再び雲雀を抱き寄せ口付ける。
唇を啄ばむような口付けは、思ったより長く続いた。

「お前は生徒の前に俺の恋人だろ」

唇を触れ合わせたまま囁かれる。

「恭弥」

聞きなれた呼び名が耳に心地良い。
誰とも同一じゃない事の証。

「妬いてくれた?それとも不安にさせちまったかな」

「どちらでもない。戦えなくてつまらなかっただけだ」

「今夜はベッドでお前だけの個人授業してやっからな」

「いらない」

そして逢瀬の時間が終わりを告げ後ろ髪引かれる思いで職員会議に赴いたディーノは、傷だらけの散々な有様を大勢の女子生徒に見られてまた取り囲まれる事になったのだが、幸いな事に一人屋上に残った雲雀には見られずに済んだと言う。







2012.05.12
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