リクエストSS

□苛立ちの裏返し
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並中の一角にある応接室。
風紀委員会の根城のそこには、並中に所属する人間全ての恐怖の対象である風紀委員長がいる。
ただし、群れを嫌う彼が定期的な見回り以外で無闇に校内をうろつくことはなく、わざわざ応接室に近付きさえしなければ恐ろしいエンカウントが起きる事はなかった。

それだけに、突然現れた風紀委員長・雲雀恭弥に職員室にいた教職員は恐怖に凍りつく。彼を怖がっているのは生徒だけではないのだ。
授業中であっても職員室の中がもぬけの殻になる事はない。
わずかに残された教職員は、この時間に受け持ち教科がなかった事をひどく恨む事となった。

「ねえ、この男はどこ」

雲雀が指差した机は、最近赴任した臨時英語教師の席。
問われた教師が脂汗を垂らしながら授業中である事、その授業がどこで行われているかを告げると、それ以上居座る気はなかったのか、雲雀は凍りつく周囲を気にする事なく職員室を出て行った。
閉められた扉の向こうで靴音が聞こえなくなった頃、職員室内は大きな安堵に包まれたのだった。





しんと静まり返った廊下の壁に背を預ける雲雀の視線の先には、何の変哲もない教室。
その中に、臨時英語教師のディーノが教鞭を取っているのが見えた。
何を話しているかは聞こえない。けれど時折り聞こえる笑い声が気に入らない。
そんな時決まってディーノは破顔して、ガラスに遮られた瞳を甘く細めるから。

女性が、見目良い男の笑顔を好むのは、大人も子供も変わらない。
ディーノに近付きたい一心で、女子生徒の殆どが授業が終わった後質問と称して彼の側に纏わりつく姿は、もはや並中の風物詩となっていた。
今だって例に漏れず、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った途端、数人の女子生徒が我先にと教壇に駆け寄っている。

(イライラする)

時間の許す限り訳隔てなく笑顔で応えるディーノを見る度に、雲雀はいつも不愉快になる。
草食動物の群れを相手にする暇があるなら、自分と手合わせをする時間を作るべきだ。
彼は並中の臨時英語教師である前に自分の家庭教師なのだから。

「よーヒバリ」

ようやく取り巻きを振り払って教室を出て来たディーノがかけた言葉に、雲雀は不機嫌そうに鼻の頭に皺を寄せる。
赴任してからと言うもの、校内で顔を合わせる時ディーノはいつも他者同様に雲雀を苗字で呼ぶ。
一線を引かれているのが気に入らないが、まさかそんな事言える筈もない。

「お前もたまには授業に出ろよなー」

「必要ない」

雲雀には近づけないのか、流石の女子生徒達も雲雀と一緒にいる時はディーノに寄って来ない。
もっとも、皆が怯える雲雀と対等に接する事の出来るディーノの株がぐんぐん上昇する結果になっているのを知っているだけに、ここでも雲雀の機嫌は悪くなる一方だ。

「戦おうよ」

「この後も授業あんだよ。事務仕事だってあるし」

「そんなのどうでもいい」

「どうでもよくねーの。臨時だって教職員なんだから仕事はちゃんとしないと駄目だろ」

「僕が一言言えば済む」

「それが駄目だって言ってんの。だいたい一生徒を特別扱いする事自体おかしいんだぞ。お前よっぽど怖がられてんだな」

ディーノはにっこり笑い、丸い頭の上でぽんぽん手を跳ねさせる。
その様を見ていたギャラリーにどよめきが走るが、いちいちそんなもの気にしていられない。

「放課後だったら相手してやる。それまでいい子で待ってろ。じゃあなヒバリ」

一方的に告げるとディーノはさっさとその場から立ち去ってしまった。
取り残された雲雀がぐるりと周囲を一瞥すると、鈴生りだったギャラリーは一斉に教室内に閉じこもり、廊下は再び静寂に包まれた。
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