リクエストSS
□stranger
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「久し振り、十年前の恭弥」
「十年後のディーノ?」
「そう。元気にしてるか?」
雲雀の額に落とされたキスは、恐らくはただの挨拶。
「恭弥に触んな!」
けれど、最後の最後に最大の邪魔者に入られたディーノにとっては、些細な接触すら許したくなかった。
「俺こんな心狭かったかな」
「うっせえ。お前がラスボスか。さっさと向こうに帰れ」
「何だよラスボスって。帰りたくても俺の一存じゃ帰れねーの。文句は向こうの恭弥に言ってくれ」
「僕、何したの」
「ただの実験」
改良を重ねた新型のバズーカを借り受けた雲雀が面白がって試し打ちをしたのだと、未来から来たディーノがいささか疲れた顔で語ってくれた。
「よりによってこれからって時だぜ。不意打ちもいいところだ」
「だからんなカッコしてんのか」
未来から来たディーノはシャツのボタンを全て外し、逞しい肉体を覗かせていた。
「同じ」
シャツの隙間から見えるタトゥーに雲雀が興味深げに触れるのが、ディーノには気に入らない。
「恭弥。こっち来い」
「邪魔しないで」
「俺以外に触っちゃ駄目だろ」
「この人だってあなたじゃないか」
「そうだけど違うから駄目。俺はここにいる俺だけ」
「あなただよ。色も匂いも同じだ」
「匂いで認識すんなよ。お前は野生動物か。とにかく駄目ったら駄目。って、コラ!お前も恭弥に触んじゃねえ!」
「ぎゅーってするくらいいいじゃねえか。減るもんじゃなし」
「減るの!俺以外が触ったらちょっとずつ恭弥減るの!あっち行け!」
「ホント心狭いなお前」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるディーノの声で目を覚ましてしまったのだろう。
気付けばヒバードとロールが、未来から来たディーノの足元で興味深げに見上げている。
「よー。お前らも久し振りだな」
ヒバードはディーノを同一だとでも思ったのか、いつもディーノにするように飛び乗った金色の髪を踏み締めたり引っ張ったりと遊び始めた。
けれどロールはそれとは少しだけ様子が違う。
「キュ!キュ!」
小さな身体を必死に伸ばしディーノの足に鼻を擦り付ける。
両手で抱き上げられた後は、鼻の行き場はディーノの顔になった。
「俺の事、覚えてんのか?」
「キュー!」
「その子の事、知ってるの」
嬉しくて堪らないといったロールの様子に、雲雀は首を傾げて尋ねる。
「未来の恭弥もよくこうやって放してた。俺とも沢山遊んだもんなー」
「キュキュキュー」
よく分かっていないヒバードとは違い、ロールは未来のディーノとこの時代のディーノをちゃんと分けて認識しているようだ。
「バズーカぶっ放されて良かったかもな。向こうで待ってる恭弥にこいつが元気でいる事教えてやれる」
「向こうには、この子はいないの?」
「こいつはボンゴレ匣に組み込まれた匣アニマルだ。たった一つしか存在しないボンゴレ匣は、今はこの時代のお前達の手元にしかない」
「僕が連れて来たから、未来の僕はこの子に会えなくなったの?」
「未来の恭弥もそれがいいと思ってお前に託したんだ。お前は未来の恭弥の分もこいつを可愛がって仲良くしてやれ」
黒い鼻先にキスをして、ディーノはロールを雲雀に返す。
主の匂いはやはり別格なのだろう。掌に鼻先を擦り付け、ロールは嬉しそうに身体を丸めている。
「それに、向こうにはちゃんとヒバードがいる。恭弥は楽しくやってるよ。心配すんな」
「うん」
「だからいちいち触んなっつの」
二人の会話を雲雀同様しんみりとして聞いていたディーノだったが、再び雲雀が未来の自分に抱き締められて我に返った。
「だからお前はどうしてそんなに無防備なの!」
「いい加減にしてくれない。うるさいよ」
この時代の二人のやり取りを、未来から来たディーノは目を細めて微笑ましげに見つめている。
「なあ恭弥、いい事教えてやる」
「何」
「こいつな、お前の事すっげー好きなの。イタリア帰っても暫くは恭弥恭弥ってうるさくて、ロマ達にウザがられてんだぜ」
「てめ!何バラしてんだ!お前だってそうだろが!」
「今はそこまでひどくねーし。恭弥大好きなのは変わんねーけどな。あのな恭弥、こいつお前に構ってもらわねーとすぐ拗ねるし、ヒバード達にすら嫉妬するくらい心狭いからお前はウザがってるかもしれないけど」
「かもしれないじゃないよ。たまに本気で鬱陶しいんだけど」
「恭弥ひでえ!お前もよく自分の事そこまで言えんなオイ!」
「けど、そんだけお前の事好きなんだよ。十年経ったら少しはマシになるから、そこまでは我慢して付き合ってやってくれ」
「そしたら僕に何かいい事ある?」
「今より強くなってるぞ。手合わせ、楽しみじゃねえ?それに、お前の頼みなら何でも聞くから我が儘言ってみろよ」
「面白そうだね」
「だろ」
「待て待て待て」
本人抜きで好き放題言われているディーノは、雲雀が未来の自分と仲が良くて気が気じゃない。
盗られないよう雲雀の身体を再びしっかりと抱き締めて、もう一人の自分を威嚇する。