リクエストSS

□stranger
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ことごとく邪魔が入る一日、と言うものはあるものだ。
運に左右されるそれは、五千の部下を従えるマフィアのボスと言えど例外ではない。

雲雀にメールをしようと思った途端に着信が入り携帯電話が使えなくなったのを皮切りに、それは一日中ディーノを悩ませた。

放課後雲雀を迎えに応接室に出向くと月に一度の風紀委員定例会の最中で、問答無用に叩き出された。
大人しく廊下で待っていたら、今度は町の見回りに行くと言う。せめて一緒に行きたくて後をつけたはいいものの、雲雀の周りは群れない程度に風紀委員達が固め、ディーノは側による事すら出来なかった。
見回りを終えた雲雀を夕食に誘う事には成功したが時間帯のせいかどの店も混雑し、当然雲雀が入店する筈もなく、デートはあっさり取り下げられてしまった。
ならば持ち帰るしかないとホテルに連れ込んだまでは良かったが、問題でも起きたのかイタリア本国からの連絡がひっきりなしに入り、已む無くディーノは雲雀を放置して執務机に齧り付く羽目になった。

それらの壁を乗り越えて、ようやくディーノは全ての案件を片付けて雲雀の待つリビングに向かう事が出来た。
部下には部屋に寄り付かないよう言い含めた。
携帯電話の電源も落とした。
もう邪魔は入らない。

「待たせてごめんな」

ディーノが仕事をしている内にルームサービスで夕食を済ませた雲雀は、ソファに腰掛け膝に乗せた小動物達と遊んでいる。
その小動物とは、主の事が大好きな黄色い小鳥と紫色のハリネズミ。
普段はあまり見る機会の無い穏やかで楽しげな顔を見る事が出来るのは嬉しいのだが、今は彼らではなく自分を構って貰いたい。

「そいつらとばっか遊んでないで俺にも構えよ。そいつらとはいつでも遊べるけど、俺は今しかいないんだぞ」

「大きな図体して小動物に対抗意識燃やさないで」

ソファの後ろから腕を回して抱き締めると不機嫌そうに鼻を鳴らすけれど、雲雀はディーノの腕を振り解こうとはしない。

「俺はヤキモチ焼きなの」

殊更音を立てて頬や耳朶にキスをすると、雲雀はくすぐったがって身を捩るが、嫌がっていない事は表情で分かる。
ディーノが身を乗り出して雲雀の唇に自分のそれを寄せると、雲雀は少しの逡巡の後、目を伏せてくれた。
ようやく甘い時間が始まると、小さな唇を塞ごうとしたまさにその時、雲雀の膝の上から可愛らしい鳴き声が上がった。

「君達を仲間外れになんてしてないだろ。ほら」

急に構われなくなって寂しかったのか、ヒバードとロールは声を上げて主の気を引こうと必死だ。
その姿の愛らしさに小さな笑みを浮かべた雲雀が指で彼らを撫でてやると、一羽と一匹は楽しげに鳴き、それを見た雲雀も楽しそうだった。

楽しくないのは寸前でキスを回避されたディーノだけ。
愛らしい邪魔者を、けれど邪険に扱う事も出来なくて、ディーノは雲雀の手から彼らを取り上げると真剣な顔つきで話しかける。

「あのな、俺はやっとの思いで恭弥といちゃいちゃ出来る時間を迎えたんだ。お前らが朝からずっと恭弥に遊んで貰ってた間ずっと我慢してたんだ。頼むからこの後は恭弥の時間を俺にくれ。邪魔せずいい子にしててくれたら、今度来る時は美味いもん沢山食わせてやっから」

一羽と一匹の返事を待たず、ディーノは彼らを手に包みチェストへ向かう。
チェストの上に置かれた小さなクッションを敷き詰めた網籠は、このホテルに於ける小動物用のベッド。
ヒバードとロールを丁寧にその中に納め優しい手つきで小さな頭を撫でてやると、素直な小動物達は大人しく眠り込んでくれた。

「これで邪魔者は消えたぞ」

「あなたどれだけ大人気ないの」

「何とでも言え」

そそくさとソファに戻ったディーノが雲雀を抱き締めると、手持ち無沙汰になったせいか意外にも雲雀もディーノを抱き締め返してきた。

(やっと……)

朝からのタイミングの悪さが、走馬灯のようにディーノの脳裏を駆け巡る。
ようやく腕に納める事の出来た幼い恋人を堪能すべく、ディーノはソファの上に雲雀の身体を優しく押し倒した。

けれど唇が触れる直前、つんざくような爆発音が聞こえ、二人は一切の動きを止める。

「な、何だ!?」

もくもくと視界を覆う白煙に、ディーノは雲雀を背に庇って身構える。

「あーくそ……やっぱ十年前に飛ばされたか」

やがて薄くなった白煙の中から現れた男は、呑気な口調であまり呑気じゃない内容を口にした。

「おま……」

「あ?分かんねえ?」

自分と同じ色の髪。
同じ色の瞳。
同じタトゥー。

十年バズーカと言う概念を知り尽くしている身としては答えは出ているが、正直あまり信じたくない。
信じたくは無いのだが。

「ディーノ」

「きょーおーやー」

背後にいた筈の雲雀があっさりと認めてしまったのだから仕方が無い。
今日一番の邪魔者に、ディーノはがっくりと肩を落として項垂れた。
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