リクエストSS
□時にはこんな休暇も
1ページ/2ページ
暖かい日が続いたかと思えば急激に冷え込んだり、天気が崩れたり、どうしても季節の変わり目は気温も気候も不安定だ。
それに加え、疲労を溜めていれば身体だって不調を訴えると言うもの。
「風邪だな」
ホテルの一室。
ディーノを診察したロマーリオは一言で言ってのけた。
「今日明日大人しくしてりゃ治る。仕事は全部終わってんだ。問題ねえだろ」
「問題大ありだっつの。俺は恭弥に会うために日本に来てんの。一人寂しくホテルで寝るためじゃねえ」
「高熱出た身体で並中まで行く気か。途中でぶっ倒れて遭難するのが関の山だ」
「微熱くらいで大げさなんだよ、お前は」
「ほー、39度が微熱とは知らなかったぜ。なら、たまに風邪をひいて37度を行ったり来たりの恭弥はどうって事ない健康体だな。今後診るのもやめるしあんたも心配すんなよ」
「恭弥はちげーだろ。俺は丈夫だからいいけど、あいつはそうじゃねえ」
「象すら動けなくなる毒を喰らってもトンファー振り回す奴のどこが丈夫じゃないのか教えてくれ」
どうやら舌戦は、ロマーリオに軍配が上がったようだ。
ディーノは口の中でぶつぶつ呟いているが、それがロマーリオに投げ付けられる事はなかった。
「とにかく寝てろ。栄養摂ってぐっすり寝るのが一番の薬だ」
「なあ、ちょっとだけ。今日行くって恭弥に連絡しちまってんだよ」
「そんなもんキャンセルしろ。滞在日数はまだあるんだ。後日埋め合わせでも何でもすりゃいいだろ」
ロマーリオはポケットから携帯電話を取り出すと、おもむろに通話を始めた。
「おう、草壁。元気か。ああ俺は元気なんだがボスが元気じゃなくてな……いやそうじゃねえ、ただの風邪だ。二、三日寝てりゃ治る。ただ今は熱のピークで動けねえ。……ああ、すまねえな。恭弥によろしく伝えといてくれ。じゃあな」
「てめ!ロマ!何勝手に連絡してんだ!」
「これであんたの予定はフリーだ。いいから寝てろ」
ディーノはベッドを飛び出して携帯を奪おうと試みるが、熱に侵され力の入らない身体ではロマーリオに適う筈も無い。
脇に抱えたディーノの身体をベッドに放り投げ、ロマーリオはディーノの携帯を取り上げてしまった。
「こら!返せ!」
「今日は仕事の電話も恭弥への電話も禁止だ。じゃあな」
「てめー!」
ドアの外へ消える右腕を追いかけようにも、実際ディーノの身体は全くと言っていい程力が入らない。
ガンガンと響く頭痛と眩暈を堪え、仕方なくディーノはベッドに身体を横たえる。
本当なら今頃雲雀と数ヶ月ぶりの逢瀬を迎えていた筈だった。
挨拶代わりのハグとキス、そしてあの子の香りを満喫している筈だったのに。
「くっそ……」
携帯を取り上げられてしまったから、連絡する事も声を聞く事も出来ない。
雲雀に会えないだけでなく声すら聞けないのだと思ったら、急激に身体が重くなった気がした。
熱も上がったのか、気分の悪さはさっきまでの比ではない。
已む無くディーノは右腕の言いつけ通り、身体を休める事に専念した。
寝て起きると大概に於いて熱と言うものは上がっている事が多い。
ディーノもその例に漏れず、最悪な目覚めを味わった。
おかしな夢を見たような気がする。不条理で不安を煽る、そのくせ捉え所の無い不思議な夢。
そのせいか全身が汗に濡れて気持ちが悪い。ロマーリオに着替えを手伝ってもらおう。
サイドテーブルに据え付けられた受話器を取ろうと伸ばした手は、何やら丸くさらさらとしたものに触れた。
「あ……?」
重い瞼を押し上げると、真っ黒な塊が視界に入った。
何度か瞬きを繰り返すと、ようやく目の焦点が合ってくる。
「な……きょ……!」
咄嗟に口を押さえたディーノだったが、ベッドに上体を投げ出して眠る人物はその声に目を覚ましてしまった。
「うるさい」
眠たそうに目を擦り、寝起きの不機嫌そうな声を出すのは、眠る直前までディーノが焦がれていた少年。
「何でお前がここに……」
それには答えず、雲雀はムッとした顔のままディーノの様子を伺っている。
髪を引っ張ったり、ぺたぺたと肌を触ったり。
「恭弥?」
「高熱出して死に掛けてた割には普通じゃないか。つまらない」
「いや全然普通じゃねえし」
相変わらず頭は重いし関節は痛いし、何より汗が気持ち悪い。
せめて身体に張り付いたシャツだけでも脱ごうと思うのだが、熱のせいか思うように腕が動かない。
「じっとしてて」
「うわ!」
突然横から伸びてきた腕が、強引にシャツを脱がせた。
「下も脱がせるから腰浮かせなよ」
「おま、俺が弱って抵抗出来ねーのをいい事に何すんだ!」
「おかしな言い方するな。着替えさせるだけだよ」
結局ディーノは押し切られ、荒っぽい着替えの世話を受ける事になった。