リクエストSS

□はじめてのおつかい
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「はい、これ」

「ありがとう。助かったよ」

きょうやはミッションクリアの報酬に、母親からのキスを頬に受ける。
父親と兄にも沢山褒めてもらえて、きょうやはひどくご満悦だ。

きょうやの後を追い、帰宅間際に先回りをしてきょうやを迎えた三人の安堵や疲労など、きょうやはこれっぽっちも知らない。

「草壁が持たせてくれたみたいだ。はい、ご褒美」

紙袋の底を漁った母親から手渡されたのは、一枚の大きなクッキー。

「ちゃんと手を洗ってから食べること」

頷くときょうやはとてとてと兄の元に駆け寄る。

「一緒に食べよう」

「一枚しかねーじゃん。お前の褒美なんだからお前が食えよ」

「半分こ」

クッキーをぱきりと割って片方を兄に差し出す。
ちゃっかり大きな方を取るのはご愛嬌だ。

「一緒に食べた方が美味しい」

「そっか。ありがとな。いただきます」

「駄目。手を洗ってから」

「うん」

子供達が連れ立って部屋から消えたのを見計らい、恭弥はようやく届いたディスクを再生させる。

「何の資料だ?」

「見る?」

「いいのか?」

「今回はあなたの所とは無関係だから構わない。他言無用だけど」

「おう」

ノートパソコンの画面を覗き込み数字を読み進めるディーノの顔は、次第に青ざめていった。

「ちょっと待て。何だこれ」

「新しく取引する案件の予想売上高と純利表。これを交渉のテーブルに持ち込めばそれぞれ二割はアップする。これがないと話にならない所だった」

「ちげえ!俺が言ってんのは数字の事!」

この案件一件が叩き出す純利益は一億を下らない。そこらの企業の年間利益など足元にも及ばない数字だ。

「こんな大金動かす資料を五歳児に持たせんなよ!」

「うるさいな。僕の仕事に口出ししないって約束だろ」

「そう言う問題じゃねえ!」

「だいたいあなたはあの子に甘過ぎる。過保護に育てたっていい事はないよ」

「話すり替えんなよ!」

喧々囂々と言い合いをする両親を、こっそりと長男が覗き見る。
あの二人も何だかんだでどこか頼りない。やっぱり可愛い弟を守るには、自分がしっかりしないといけないのだ。
自分にそう言い聞かせ、兄はきょうやの待つ部屋に戻って行った。






2012.03.25
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