リクエストSS

□はじめてのおつかい
2ページ/3ページ

頭に黄色い鳥を、肩には紫色のハリネズミを乗せて、きょうやは大事な使命を胸に歩く。
大好きな母親の大事な仕事の手伝いに、きょうやは自分が大人になった気がして誇らしかった。

そして、意気揚々と歩くきょうやの後ろを、コソコソとついて歩く人影。

「なあ、こうやってついて歩くくらいなら、一緒に行けばよかったんじゃねえの」

「一人で行くって言ったろ。誰に似たのか、あの子は言い出したら聞かない」

「いや、どう考えてもお前似だろう」

それはきょうやの兄と母と父。
利口なお供はつけたけど、やはり心配で仕方がない。
特に末息子を溺愛している父親はその傾向が強いらしい。

「あんなに可愛いんだぞ。変な奴に連れてかれたらどうすんだよ。幾らきょうやが五歳児の割に強くたって、大人相手じゃ仔猫同然だ。お前もそう思うだろ」

「父さん達が口酸っぱくして言ってるから知らない人にはついて行かないけど、小さい動物見るとすぐついてくからなー。あ、ほら」

長男が指差した先できょうやはしゃがみ込み、見知らぬ野良猫と遊んでいた。
頭と肩に小動物を乗せ仔猫と戯れる末息子の姿は愛らしい事この上なく、両親と兄はついほのぼのとその光景を見守ってしまったが、逃げた仔猫を追ってきょうやが反対方向へ走り出したのには流石に慌てる。

「きょうやちげえ!そっちじゃなくて、あっち!」

「いや、上手い事誘導できればまだ修正は効く!」

「静かに!聞こえるよ!」

家族総出できょうやを追いかけ、角を二つほど曲がった所でさっきと同じように仔猫と遊ぶきょうやを見つけ、一向はホッと胸を撫で下ろした。
やがて仔猫は迎えに来た母親らしい猫について行き、きょうやはそれに手を振って見送った。

指令を再開させる為歩き出そうとしたきょうやだったが、周りの景色が自分の知っているそれとは違う事に気付いて立ち止まる。
仔猫を追いかけている内に違うルートに入ったようだ。
暫くきょうやはどうしようかと考えていたが、道は必ず繋がっていると言ういささか乱暴な前向き思考の元、目的地とは思い切り反対方向に歩き出した。

「そっちじゃねえ!」

「うるさい」

「きょうや、こっち」

「君も出て行かないで。あの子に気付かれるだろ」

「だってこのままじゃきょうや迷子になっちまう」

「分かってるよ。今考えてるからちょっと待ってて」

緊張感に欠ける家族会議の最中に、きょうやのいる方向からピーピーキューキューと鳴く声が聞こえた。
見ると、鳥は羽ばたいて本来の方向へ飛んでいて、ハリネズミは短い脚で懸命に鳥の行く方向に走る。
どちらもきょうやを導こうと頑張っていた。

「ありがとう」

きょうやは頼もしいナビゲートに礼を言い、無事に元来た道を戻る。
きょうやが角を曲がった後、身を潜めていた三人は一斉に安堵の息をついた。






その後きょうやは道を違える事も、小動物に惑わされる事もなく、無事に目的地である風紀財団施設に到着した。
事前に上司から連絡を受けて外で待機していた草壁から紙袋と労いの言葉を受け取り、きょうやはすっかりご機嫌だ。

「僕、一人でおつかい出来るんだよ」

「偉いですね。流石あの方達のお子さんだ。帰りも気をつけて下さいね」

「うん」

自分のみならず、大好きな両親の事も褒められたみたいできょうやは嬉しくなる。
草壁に託された紙袋を宝物のように胸に抱え、大事なミッションを遂行すべくきょうやは帰途に着いた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ