リクエストSS

□はじめてのおつかい
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「話が違う」

恭弥の声が響いた瞬間、部屋の温度が下がった気がした。
広げた新聞の影からディーノがこっそり隣に座る妻の様子を伺うと、膝と腕を組み、携帯を肩に挟んで、それはもう不機嫌そうな横顔が目に入った。

「今日の昼までには僕の手元に届く段取りだった筈だ。確認したのは一度や二度じゃない。元々話を持って来たのは向こうだろ。それなのに、どうして僕が動かなくちゃいけないんだ」

両親の足元で大人しく遊んでいた二人の子供達も、いつもとは違う母親の様子に遊ぶ手を止めた。

「へえ……わざわざ僕に出向けって言うの。この僕に指示を出すなんて、随分と偉くなったものだね草壁哲矢。君がここまで持ってくれば済む話だろ……知らないよそんな事……なら沢田の方を断ればいい」

どうやら仕事上のトラブルのようだ。
漏れ聞こえる会話から察するに、今日自宅に届く筈の資料が、何かの手違いで財団施設に届いてしまったらしい。
ボンゴレからの仕事も受諾している草壁は施設から離れる事が出来ず、上司に足労を願っていると言ったところか。

「もういいよ面倒くさい。行けばいいんだろ。その代わり、この貸しは高いよ」

言い捨てて恭弥は、電源を落とした携帯を放り投げる。
その顔には、不本意と大書きされていた。

「行くか?」

「行かなきゃいけないだろうね。全く、昨日も夜遅くまで拘束されて疲れてるっていうのに」

「資料預かってくるだけなら俺が行ってやってもいいけど」

「あなたはまだ風呂掃除が終わってないだろ」

「僕が行く」

両親の会話に、黒く大きな目を輝かせてきょうやが割り込んで来た。

「ママのおつかい、する」

「お前だけじゃあぶねーよ。俺もついてくぜ」

「いらない。一人で行ける」

兄の申し出をぴしゃりと断って、きょうやは母親の膝によじ登る。

「草壁のところに行けばいいの?」

すっかりその気の息子に、思わず両親は顔を見合わせる。
子供達を連れて財団施設に行った事は何度もあるから、きょうやも確かに場所は知っている。
その度に草壁に遊んでもらっているから人見知りもしない。
持ち運ぶものは軽い封筒だから、五歳児の力でも問題ない。
心配なのは、この子が一人で遠出をした事がないという事実だけ。

「じゃあ、お願いしようかな。草壁の所に行って彼に渡されたものを僕に届けて。大事なお仕事だよ。出来る?」

「出来るよ」

「いや、駄目だ。一人じゃ危ない」

「あなたは黙ってて。あそこまでは少し距離があるだろ。一人で歩いていると退屈で長く感じるから、この子達を連れて行きなよ」

母親が差し出したのは、黄色い小鳥と紫色のハリネズミ。

「友達と一緒なら、きっと楽しくおつかい出来る」

「うん」

大事な友達を受け取って、きょうやは力強く頷いた。
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