リクエストSS

□Animals
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ディーノが我が物顔で応接室に現れるのはいつもの事だ。
部屋の主がいようがいまいがお構いなし。
校内の見回りを終えた雲雀が根城に戻るとディーノが出迎える事も度々あった。
疲れているのか、雲雀の帰還を待ちきれず、ソファに寝そべって眠ってしまう事も珍しい光景ではなかった。

一方、応接室にはたまに小動物が放たれている時がある。
人語を理解していると思しき小さな黄色い鳥。
そして、こちらも人語を理解しているらしい紫色のハリネズミ。
どちらも思い思いに室内を飛び回ったり歩き回ったり転がったり主の頭に上ったり、それはもういつも好き勝手に遊んでいる。
遊び疲れて眠る姿もまた愛らしく、仕事の手を休めた雲雀が微笑ましい光景に目を細める事もあった。

一つ一つはよくある光景。
けれど、それら全てが同時に起きる事は非常に珍しい。

そして今、応接室に戻って来たばかりの雲雀の目の前に、長い手足を床に投げ出しソファで眠るディーノと、彼の胸の上で身を寄せ合い眠るヒバードとロールの姿がある。
それら一つ一つは見慣れているから特にどうと言う事もない。
だが、全てまとめて集約した光景の破壊力は何なのだろう。

「委員長。どう」

「静かに」

訝しげな草壁の問いを遮り、雲雀は力ずくで黙らせた。
トンファーの殴打により廊下に転がり出された哀れな部下を捨て置き、雲雀は扉を閉めてしまう。
どうやらソファの上の一人と一羽と一匹は起きなかったようだ。

雲雀は取り出した携帯を一通り操作すると、ソファの前にしゃがみ込んだ。
ディーノの胸が上下する度にヒバードとロールも同じように上下する。
身体を丸め、薄い瞼をぴるぴる震わせて眠る小さな生き物の愛らしさは言葉に出来ない。
彼らの下敷きになっているディーノは決して小さくも愛らしくもないが、普段あまり見る機会のない彼の寝顔が好きだった。

金色の髪が零れて白い頬に掛かる。
髪と同じ色をした長い睫が目の下に影を落とす。
薄く開いた唇は、肌の白さのせいで一際赤く見えた。

「……っ」

何なのだ、心を鷲掴みにするこの生き物達は。
あまりに居た堪れなく、雲雀はディーノの脳天目掛けてトンファーを振るった。

「いってぇ!!」

当然と言えば当然だが、ディーノは瞬時に飛び起きた。

「恭弥!?てめ、いきなり何すんだ!!」

「勝手に入って勝手に寝るな」

「起こすにしたって別のやり方があんだろ!!殺す気か!?」

涙目でがなりたてるディーノの足元で、ピーピーキューキューと声が聞こえる。
ディーノが飛び起きたせいで落とされてしまった一羽と一匹にとっても、手荒い目覚ましだったようだ。

「あーほら、こいつらも痛がってんじゃん。大丈夫か?」

身を屈めたディーノが両手で彼らを救い上げ、潰さないように優しく掌に包む。

「ヒバード……は無事か。お前恭弥の荒っぽい扱い慣れてるもんな。あーでもロールは駄目だな」

頭を打ったのだろう。ロールはキューキューと悲痛な泣き声を上げて頭を擦ろうとするが、短い手では自分の頭に届かない。
ディーノはヒバードを自分の頭に移し、ロールの小さな頭を優しく指で擦る。

「怪我もしてねーしたんこぶも出来てねーから大丈夫だ。すぐ痛くなくなるからな。よーし、いい子いい子」

「キュッ」

主と仲良しのキラキラした人の事もロールは大好きだ。
遊んでくれたと思ったのか、痛みも忘れてディーノに顔を擦り付けている。

「くすぐってぇ」

手の中から身を乗り出して小さな鼻先を自分の鼻に擦り付けるロールにディーノは笑いかけ、その鼻先にキスをしてやった。

「ハネウマ。ハネウマ」

相棒ばかり構われて妬いたのか、ディーノの頭の上でヒバードが抗議の声を上げる。

「んだよ……いてーって。髪踏み締めんな。引っ張んな。いっつも言ってんだろ、俺の髪はお前の巣材じゃねーんだよ」

文句の言葉とは裏腹に、ディーノは楽しそうに笑ってヒバードの好きにさせている。
毛並みのいい大型犬みたいな男が愛らしい小動物と戯れる図に、もはや雲雀はどうしていいか分からない。

「いい加減にしてくれる」

「あ?うお!」

雲雀は再びトンファーを振り下ろすが今回は避けられてしまった。
ディーノの手の中のロールも、頭の上のヒバードも無事だ。

「何なのあなた」

「こっちの台詞だ!何なんだよお前!」

「僕をどうするつもり」

「はあ!?意味分かんねーっつーの!」

埒が明かずディーノも獲物を取り出して応戦する。

「ヒバリ、ヒバードモアソブ」

「キュキュ。キュー」

ソファに放り出された一羽と一匹は、仲良く遊ぶ主達に自分達も仲間に入れてくれと訴えるが、主達はそれどころではないようだ。
放り出された彼らは大騒ぎの中、やがて再び身体を寄せ合って眠りについた。




数日後。
たまたま見えてしまった雲雀の携帯待受画像が、眠るディーノとヒバードとロールのスリーショットと知り、草壁は風紀委員会内に箝口令を敷いたのだった。





2012.02.25
 

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