リクエストSS

□最愛
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「で?」

「すみません……」

「ちゃんと見てろって、言ったよね?」

「はい……」

「任せろって、あなた言わなかった?」

「面目ない……」

リビングのソファーの上。
簡易ベッドと化したそこに寝かされたのは、ぐったりとしたきょうや。

「だいたい君も君だよ。いつもは百数えるのも途中で嫌がるのに」

ぐったりの理由は、長時間の入浴による湯あたりだ。

「だって、パパと遊びたかった」

冷たいタオルを額に乗せてしょんぼりと答える息子の姿に、ディーノは胸を締め付けられる気持ちになる。
まともに顔を合わせるのは仕事が休みの日だけ。
さぞかし寂しい思いをさせていたのだろう。
僅かな時間も惜しむように一緒にいたがる息子が、愛おしくて可哀想で仕方が無い。

「後で部屋に運んであげるから、今日はこのまま寝るんだよ。いつもはもう寝てる時間なんだから」

「やだ、もっとパパと遊ぶ」

「夜更しする子は悪い子だって教えたろ。悪い子は嫌われるよ。パパや僕が君の事を嫌いになってもいいの」

「やだ」

「だったら大人しく寝ようね」

「やだ。折角パパがいるのに。まだ寝たくない」

めったに我が儘を言わないきょうやがここまでぐずるのは珍しい。
自分の帰りを待っている間も、今と同じようにぐずっていたのだろう。

「今度の休みは一日中遊んでやるから」

「……本当?」

「ああ。朝から晩まで遊んでやる。遊園地でも動物園でも、きょうやの行きたい所どこでも連れて行ってやるよ」

「僕、動物園に行きたい」

「よーし。大きな象さんや強いライオンを一緒に見よう」

「うん」

「だから今日はママの言う事聞いて寝ような」

「一緒に寝てくれる?」

「そしたらちゃんと寝るか?」

「うん」

「そんならいいぜ。三人で一緒に寝よう」

「うん」

しょげていたきょうやの顔に、ようやく小さな笑顔が灯る。

「この子の部屋から鳥のぬいぐるみ持って来るから、あなたはこの子を寝室に運んであげて」

「了解」

大きなベッドの上、自分を守るように両側から手を握ってくれる両親に安心したか、きょうやはあっと言う間に小さな寝息を立て始めた。

「寂しがらせてるよなぁ……」

穏やかに眠る我が子の髪を撫で、ディーノはぽつりと呟く。
寂しいなど、きょうやは一度も口にしない。
けれど今日は、普段はあまり見る事の出来ない嬉しそうな笑顔を惜しげもなく見せ、決して側から離れようとはしなかった。
いつも寂しかったのだと、言葉で言われるよりもずっと堪える。

「まだ子供だから仕方ないよ。それにこの子はあなたが大好きだからね」

「んー……けど、しょっちゅう寂しがらせてたら嫌われそう」

「それはない。忘れたの?この子が何から何まで僕にそっくりだって」

「もしかして、お前も寂しかった?」

「昔はね。子供の頃、僕はあなたを待つ事しか出来なかったから。自分からあなたに会いに行ける大人になってからは、そんな気持ちもどこかに行ったみたいだけど」

「ごめんな」

「今更だよ。ところで、僕とあなたが仲良さそうにしてると、この子が不機嫌になるの気付いてた?」

「あ?嫉妬?」

「そう。可愛いよね。で、さっきの話。僕とこの子がそっくりだって話は覚えてるかな」

眠るきょうやの髪を撫でながら、恭弥は悪戯を仕掛ける子供みたいな表情でディーノを見つめる。
その言葉の意味に気付かない程ディーノは鈍くはない。
青い炎に彩られた手が恭弥の頬に添えられる。
子供のような丸みはなく、けれどすべやかな頬。

「あなたを大好きなのは、この子だけじゃないよ」

「知ってる」

「じゃあ、今度は僕と遊んで」

天使のような寝顔で健やかに眠る子供は、頭上で交わされる両親のキスに気付かない。
濡れた吐息は密やかで、子供の眠りを妨げる事もない。
とは言え、子供が同衾するベッドでそれ以上の行為に発展させる訳にもいかず、二人は情欲を綺麗に消し去り眠りにつく。

大好きな両親に抱かれて目覚めるきょうやの嬉しそうな顔が、今から楽しみだった。







2011.12.25
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