リクエストSS
□午睡
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「恭弥達どこ行っちまったんだろ」
「屋敷内のどこかにはいるさ。いいからサインしろって」
窓から見えていた二人の雲雀の姿が消えて心配になったのか、ディーノの仕事効率は格段と下がりこの時代のディーノに文句を言われ続ける羽目になった。
「ちょっと恭弥探してくる」
居ても立ってもいられなくてついに部屋を出ようとしたディーノだったが、開けようとしたドアが反対側から開けられて反射的に動きをとめた。
「何、どこかいくの」
自分とあまり目線の変わらないこの時代の雲雀と至近距離で向き合ってしまい、ディーノの鼓動は大きく跳ね上がる。
「きょ……!おま、どこ行ってたんだよ。俺の恭弥は?」
「誰があなたのか知らないけど、あの子なら僕の自室で寝てる」
「お前の部屋?なんだそれ」
「俺が西棟最奥突き当たりの洋室を和室に改造して恭弥用に作ったんだよ。あの部屋、子供の恭弥も気に入ってくれっかな」
「僕が気に入ってるなら気に入るし、そうじゃなきゃ気に入らないだろ」
「ちょっと、様子見てくる」
二人のやり取りを聞きながらそのまま部屋を出ようとしたディーノだったが、細い手で首の後ろを掴まれて引き止められた。
「んだよ!」
「言っておくけどその部屋にあなたは立ち入り禁止」
「は!?何で!」
「言ったろ、僕の部屋だって。僕とこの人以外は立ち入り禁止。あの子は僕自身だから特例だけど、あなたは駄目」
「何でだよ、俺だってこいつだろ」
「駄目ったら駄目」
言い募っても雲雀は受諾してくれない。それでもしつこく訴えると根負けしたのか単にうっとおしくなったのか、
「寝てるあの子を起こすだけなら」
との許可を与えてくれたので、ディーノは書類をこの時代のディーノに任せて脱兎の如く部屋を出た。
「ったく、残りは俺がやんのかよ」
「元々あなたの仕事なんだから文句言わない。その割には嬉しそうな顔してるけど」
「そりゃ。俺はよくてあいつは駄目なんだろ。やっぱ嬉しいじゃん」
ディーノが言っているのは雲雀の自室入室に関して。
「俺とあいつは、違う?」
「当然だろ」
十年の月日は決して短くはない。
共に居た時間も、築き作り上げた関係も、それに伴う気持ちも何もかも違う。
贈られた自室はそれらの延長線上のもの。
「でも昔の恭弥はいいんだ?」
「僕は僕が一番可愛い」
「知ってるよ」
恋人の唯我独尊ぶりも自分ルールも、昔から変わらない。
昔とは少しだけ違って、けれど大元は全く変わらない。大人で子供な恋人。
それはきっと二人とも同じ。
「俺らも少し休憩すっか」
ディーノは久しぶりに触れる細い肢体を抱き寄せる。
腕の中で、その身体は力を込めなくても身を摺り寄せてくれた。
「恭弥」
教えられた部屋の外から声を掛けても、中からの応答は無い。
「入るぞ」
引き戸を開けて中に身体を滑り込ませたディーノを迎えたのは『和』の空気。
畳の部屋も、窓にはめ込まれた障子も、明かりを押さえた和風のスタンドも、そして部屋の中央で眠る子供も、何もかも。
「恭弥……」
膝で雲雀の傍らまで移動したディーノは、穏やかに眠る子供の髪を撫でてやる。
よく見ると、閉じられた目の下には薄い隈。
神経質なところのある雲雀にとって、十年後という環境も慣れない屋敷の部屋もストレスだったのだろう。
「ごめんな……」
ディーノにとっては、多少変わったとは言え自分の家だ。
バズーカの不具合と言えどこの時代のボンゴレが太鼓判を押しているから、過去に戻る事に関しても何ら不安もない。
けれど雲雀もそうだという保障はなかったのに。
「ごめん」
髪を撫でる感触と零れ落ちた呟きが覚醒を促したのか、ディーノの視線の下でゆっくりと黒い瞳が開かれた。
「起こしちまったか?」
ぼんやりと見上げる瞳は、まだ夢と現を行き来しているようだった。
「まだ眠けりゃ寝てろ」
「仕事終わったの?」
けれど発せられた言葉は明瞭で、睡魔が払拭されつつあることを表していた。
「切り上げた」
「じゃああなたも昼寝しようよ」
髪を撫でていた手を小さな両手が包み込む。
そのままぐいぐいと引っ張るからディーノは寝具に横たわる雲雀に覆い被さる形になってしまう。
「そうしたいけどな、俺はホントはこの部屋入っちゃいけねーんだ」
「何で?」
「この時代のお前に駄目って言われた。この部屋入っていいのはお前と、この時代の俺だけだって。お前を起こすだけって言い含められてるから、だから俺はこの部屋で昼寝出来ねぇの。恭弥はまだ寝てたかったら寝てていいから」
「そう」
そう言って雲雀は握っていたディーノの掌を解放した。
居心地のよさそうな和室。
この時代の雲雀の好みに作られた居室なら、過去の雲雀だって好まない筈がない。
他の客室なんかより、ずっと。
もっと休ませてやろうと思い立ち上がろうとしたディーノだったが、服の裾を引っ張られて動けない。
「恭弥?」
「じゃあ、僕も部屋を出る」